不規則に聞こえる微かな水音
視界を過ぎる朱い残像 水の中を泳ぐしなやかな身体 限られた狭い空間の中を優雅に泳ぐ姿 きっと彼等には気持ちよい等と思うはずの無い当たり前の光景なのだろうけれど 不規則な水音も、視界を流れる朱いヒレも 水槽の硝子越しの人間に、心地よい涼しさを運んでくれる 変わる筈の無い室温が幾度か下がった様な錯覚 熱気を含んだ湿気を 肌の上から洗い流す水の冷たさ 揺らめく朱と微かな水音が、いやに魅力的な幻を見せる 巡らせた視界の中で揺れる水面 ―――冷たい水の中 確実な涼と心地よさを与えてくれるだろう空間 無意識の内に、手が伸びる 少し大きな水音 指先に感じる滑らかな質感と冷たさ ささやかな冷たさが、指先からゆっくりと広がっていく感覚 ―――っ 見開いた目に映ったのは かき混ぜるように動かした指の間をすり抜けていく金魚の姿 偶然でも、まるで抗議するかの様に目の前に留まった姿に笑みがこぼれる ゆっくりと引き上げた手が、心地よい冷たさを感じさせる 水滴が乾く迄の間のわずかな時間 朱い色彩が動いて、水音が鳴る 幾度も繰り返される誘惑 “彼”の様に水中で生活することは不可能だけれど ―――せめてシャワーでも……… ボンヤリとした頭に浮かんだ欲求に従って、のろのろと身体を動かす 視界から消えた涼しげな光景 耳に聞こえていた微かな音が途切れる そして、身体にまとわりつく熱気 ―――あつっ…い 不意に気温が上がった――― そんな錯覚を感じながら、ゆっくりと消えていく足音 ほどなくして、遠く水音が聞こえる 小さな水槽の中で
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