「出かけるぞ」
日も落ちた夜
その一言と共にコートが渡される
「どこに行くの?」
「行けば解る」
いつも通りの答え
楽しげな表情と声が、今から楽しいことをするんだって意思を伝えてくれる
それなら、いいかな
どこに行くのか聞かなくても
何をするのか聞かなくても
私は準備を進めて彼の前へと立つ
「行くぞ」
大きな手が腕を掴む
周りの空気が変わった
街には様々な飾りつけ
周囲の建物に灯された様々な色合いの光
眩しい位の光の渦に驚いて足が止まる
足を止めた私に気がついてすぐにあなたが振り返る
向けられるのは問いかけの視線
「………綺麗ね」
私の声に、小さな笑みを浮かべる
私に向けて伸ばされる手
あなたの珍しい態度に驚いて
そして慌てて手を繋ぐ
繋いだ手から伝わってくる温もり
辺りを埋めるほどの人々の中を手を引かれて歩く
「人が多いのね」
「そうだな」
あなたの声をかき消す様に花火が上がる
音につられて見上げた空から、光が降り注ぐ
続けざまにあがるいくつもの花火
空が明るい色に染まる
ほんの短い時間でたくさんの花火が上がった
訪れる突然の静寂
自然に湧き上がる人々の声
―――カウントダウン?
私は思わず顔を仰ぎ見る
柔らかな笑み
大きな花火と共に辺りの明かりがいっせいに落ちる
耳元で囁かれる声―――言葉
そして………
ほんの一瞬温もりが唇へと触れた
明るい笑い声
楽しげな人々の様子
傍を通り過ぎる人々が一様に同じ言葉を掛けていく言葉に私も同じように
「おめでとう」
の言葉を返す
新しい年の始まり
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