上質な夢

夢を見る
酷く悲しく暗い夢を
言葉であらわすならば、それは“悪夢”
あり得ない未来と
経験しなかった過去
幾夜の夢の中上質な悪夢が訪れる

いつもの様に訪れた木陰で眠るアリオスを見た
苦しげに歪められた表情
きつく握りしめられた掌
「アリオス」
人の気配に敏感な彼が目覚めない
「アリオス」
少しだけ大きくなる声
無意識の内に手が伸びる
アリオスが心配だから
アリオスが苦しんでいるから
だから、早く目覚めて欲しくて
身体へと掛ける手、握りしめてそっと揺すろうとして……
一瞬だけ止まる呼吸
私の手はアリオスの手にきつく握りしめられた
いつもなら絶対何か言って来る筈なのに
そのまま、何の反応もない
「……アリオス?」
恐る恐る覗き込んだ顔
………寝てる?
私にはアリオスが相変わらず寝ている様に見えて
安堵と驚きとがごっちゃになって思わず力が抜ける
「…………」
さっきよりも少し安らいだ表情
捕まれていないもう一つの手を伸ばして恐る恐るアリオスの髪に触れる
穏やかな呼吸
さらさらと手から滑り落ちる髪の感触
「眠れないって言ってたもんね」
口から、誰かに対する言い訳が滑り落ちる
全然起きる様子もなくて、安らいだ表情で眠る姿
「ゆっくり眠れるといいね……」
眠り続けるアリオスへと、柔らかな笑みがこぼれ落ちる
アンジェリークは、そのまま長い時間そうしていた

日が傾き、ゆっくりと闇が広がり始める頃
肌寒さを感じアリオスは眼を明けた
さすがにこの時間までこの場所に居続ける物好きは居ない
強張った身体をゆっくりと起こす
ふと、すぐ隣へ視線が吸い寄せられ、動きが止まった
……アンジェ?
踏みしめられた草花は、その場に人がいたことを教える
辺りに溶け込むように残った気配
「……ったく」
やけに気分良く眠れた理由が判った
まさか俺が気付かないなんてな
「流石ってところか?」
アリオスは隠しきれない笑みを浮かべていた

幸せな夢を見た
柔らかく優しい、鮮やかな夢
希望を感じさせるような
そんな
極上の甘ったるい夢を見た


〜アンジェリーク〜

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