ロックに手を引かれるまま、行き先も告げられずにたどり着いたのは海を見下ろす丘の上に立てられた一件の宿
窓の外には降り注ぐ雪が見える
そして、激しい程の波の音
冷たい“海”が残された場所
この場所に辿りついて、ココがいったいどんな場所なのか漸く教えられた
今も、昔と変わらない海が残っているという奇跡の様な場所だという話
―――それは幾分大げさな話だとしても
あの時から月日がたち、少しずつ以前の姿を取り戻そうとしている世界の中にあっては、この場所はきっと晴れてさえ居ればこれ以上ない程の綺麗な景色を見せてくれるのだと思う
………晴れてさえ居れば
あいにく窓の外は空を隠す程の雪
この場所に滞在して数日、あいにくと良くない天気が続いている
宿の者達も、天気に恵まれない私達に気の毒そうな視線を送っているけれど
元々この時期の天気はあまり良くは無いと言うのだから仕方が無い
………天気が良くない時期だと言うことで、この宿に泊まることが出来たらしいけれど
別にロックが言ったわけでないけれど、話を聞いた結果導き出した推測
天気が悪いのも仕方がない
私自身はそうおもっているのだけれど………
窓の外を見てロックがため息を吐く
そして苛立たしげにソファーへと座り込む
「そろそろ晴れても良い頃なんだ」
私の視線に気が付いて、どこか力の無い言葉を零す
私は気にしていないのに、ロックは晴れない事を気にしている
私に見せたかったという景色
私に見せたいとここまで連れて来たこと
ここに来るまでののんびりとした旅
こんな風に2人でいられるという事
それだけで私は満足している
「ロック………」
一緒に旅が出来て、こうやって2人で楽しく過ごせればそれで良い
その言葉を伝える為に、私はロックの隣へと座り込んだ

幾分穏やかな波の音が聞こえる
窓の外には晴れ渡った空と海が見える
ずっと昔に見た海の色
とても懐かしい光景
「な、綺麗だろ」
得意気な顔でロックが私を振り返った