聖地の新年は賑やかに始まる
日付の変更と共に打ち鳴らされるクラッカー
静まりかえっていた大広間には音楽が流れ、人々が笑いざわめく
壁際に並べられた数々の料理
催されているのは、新年のパーティー
けれど華やかに着飾った紳士淑女の姿は見えない
会場を埋めるのはごく普通の人々
日頃聖地で働く人々の姿
ここ数年の“いつもの”光景
聖地の新年は厳かに静粛に
世間一般にはそんなイメージがあるらしい
目の前で繰り広げられているのは、その言葉とはかけ離れた光景
いつもは堅苦しい奴等も、賑やかに騒いでいる
柔らかに彩られたパーティー会場
アリオスは遠く、彼等の様子を眺める
形だけは完璧で優雅なパーティー
実態は、優雅とはとても言い難い情景
―――誰もが楽しめる様に
忠実に言葉を守った結果
パーティーには必ず居るはずの給仕の姿は見えない
誰もが主役となり
誰もが好きな事を、やりたい事をして良い日
―――ただし、明らかに他人に迷惑を掛ける行為は禁じられている
たどたどしいピアノの音
つたないステップのダンス
片隅で披露されるささやかな芸
見物の人々から沸き上がる笑い声
下手だろうと本人がやりたいと思ったことに文句を言ってはいけない
取り決められた決まり事のお陰か、普段なら絶対にやらない事に挑戦する人の姿が多数
下手な事でもやりたければやるって事は、大小の失敗がそこかしこで起きる
あちこちで上がる様々な声
お陰で優雅とは言い難い喧噪に包まれている
見知った顔が、視界の中を慌てて駆け抜けていく
名前を呼ぶ声が聞こえる
楽しげな人々の顔を見ながら、アリオスは人気の無い方へと足を急いだ
宇宙への祈りが終わる
いつもよりも長い時間を裂いて触れた宇宙は順調で心配する様な事は何もなかった
「アリオスっ」
扉の隣へ寄りかかり目をつぶっていたアリオスが身を起こす
「終わったか?」
少しだけ感じ取ることが出来る楽しそうな雰囲気
質問には答えないで、笑顔でアリオスの手を取る
今日は好きな事をして良い日
みんなで決めた決まり事
「行くか」
アリオスの声が聞こえるのと同時に、目に映る景色が変わった
聖地時間で一年に一度
聖地時間で新年を迎えたとき
日頃は色んな事を我慢して貰っているんだもの
1日位は好きな事をして貰っても良いと思うの
やりたいと思えば何でも良いの
だってね、一つくらいやりたいことって在るはずでしょ?
優しく笑う笑顔に聖地における新年の行事は決定した
聖地を遠く離れた星
人の居ない穏やかな海岸に人影が2つ
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