休日の午後は人が多い
それが特別な日なら尚更で
楽しげな姿があちらこちらに見える
“大切な人と共に……”
ずっと昔に、誰かが言ったキャッチフレーズ
この国には、それが浸透していて
今日のこの日は
例えば家族と
例えば友人と
そして、最愛の恋人と
誰かと共に過ごす一日
それが徹底しすぎていて、今日ばかりは仕事をしている“人間”は１人も居ない
どんなお店も、応対するのは機械ばかり
もちろんこの国の人間はその状況にだれ一人文句なんて言うはずも無い
『全国民一斉休日』
なんて条例が発動されて、それがホントに実施される
初めて知った時はそれこそ呆れたけれど
考えて見れば当たり前の事
人が居なくても１人位は、お店を運営してくれる自動機械がある
機械に任せられない、なんていうお店でも、今日１日くらい休んだってもんだいない……はず
それにこんな日に、１人だけ働いてるなんてとっても悔しい
それなら、休みにしてしまって構わない
何も知らずに訪れた、他国の観光客は驚いてるみたいだけど
この国のこういう思い切りの良さと、寛大さは好き
窓の外の大きな時計が、待ち合わせの時間が迫った事を告げる
街を行く人達と同じように楽しげな笑みを浮かべて、彼女は店を出た

鼻腔をくすぐる美味そうな匂い
耳に聞こえる話し声
肌に触れる布の感触
眠りに落ちていた意識がゆっくりと浮上する
開いた目に映る電灯の明かり
閉ざされたカーテン
思考が定まらないまま、身を起こす
巡らせた視線が、料理を持った姿を見つける
………………
「……起きたのか」
何が起きているのか理解出来ずに固まった所へと掛かる声
「なら、手伝え」
踵を返す姿を呆然と見送る
「………え、と……」
火の燃える音
刃物が刻む音
そして、話声
……出かけたんじゃなかったか？
「起きたんなら、手伝って」
首をひねるとほぼ同時に明るい声が聞こえた

特別な日はそわそわして、気も漫ろ
集中なんてしてないし
話を聞いてない奴もいたりして
仕事の能率は芳しくない
そんな光景をそこかしこで目にして
「今日はもう、終わりにしようぜ」
そう言って、戸惑う彼等を追い出して、自分もさっさと帰宅して、無理矢理休日を作ったのが数年前
その翌年からはいつのまにかカレンダーに入った赤い印
初めからその日は休日に設定されて、以来毎年その日は休日
こんな理由でこの日が休日なのは、きっとたぶんこの国だけ