名前を知る事も無かった小さな村
海に面した小高い丘の上のどかな光景の続く村の中へと一台の車が慌ただしく到着する
眉を潜め、避ける様に家の中へと消えていく人々の姿に、慌てて車を降り
「待って!」
呼びかけに足を止めた男の腕を、慌てて捕まえた
小さな村の入り口で、ラグナの居場所を聞いた相手は、驚いた顔をして親切に村の奧へと案内してくれた
たどり着いたのは、一件の小さなパブ
案内してくれた男が、店主らしい若い女性と、一言二言言葉を交わし
カウンターの中から、女性がこちらへ視線を向けた
瞳の中に一瞬浮かんだ表情は驚き
「彼なら隣の家にいるわ……」
「ありがとう!」
彼女の言葉を聞くと同時に、身体は反射的に隣家へと向かった
軋んだ音を立てる階段を登った先
並んだベッドの中に見覚えのある姿が眠っていた
どこか苦しげなその様子に、急いでいた足が止まる
包帯に覆われた姿に、今更心の奥から恐怖が沸き上がった
ラグナの姿を見つけたその先から足を踏み出す事が出来なくて
その場に留まったまま
彼の姿を見つめる
静かに動く胸
ゆっくりと、繰り返される呼吸
生きている証
安堵する気持ちと同時に聞こえる呼吸音
そして………
私はすぐ側へと掛けより、そっと手を握りしめた
苦しげな息の下から囁かれる名前
「私は、ここに居るわ」
私は幸せな気分でラグナに声をかける
安堵したような表情が浮かんだ様に見えるのは気のせい?
私は握る手に力を込める
呼吸が少し柔らかくなる
「……ラグナ」
私の呼びかけに反応して、瞼が動く
ゆっくりと目が開く
顔を覗き込んだ私の目の前で、数回瞬きを繰り返した