「飛び起きたと思ったら、飛び出して行ったのよ」
くすくす笑いながら、彼女が愛しげに頬にキスを落とす
「恐い夢でも見たのか?」
両手で、2人を握り締めて離さない小さな息子に笑みが零れる
「あら、それだったら私に抱きついてくれても良いじゃないの」
わざとらしい拗ねた口調
「それはやっぱり俺の方が安心できるんだろっ」
当然とばかりに威張って言った言葉に、彼女が怒ったふりをする
いつもと変わらない光景を演じている
いつもとは違う子供の様子が気になるから
泣きそうな癖に、口を結んだまま訳を話そうとしないその様子が気になるから
『なぁ、いったいどうしたんだ?』
視線で送る問いかけに、困ったように首を振る
言えない程の夢を見たのか?
「大丈夫だからな、それはただの夢だからな」
同じ言葉を囁きながら、抱き上げた手に力を込める
不安げな目がじっと自分を見つめる
探るような目にラグナは何故か落ち着かない気分になる
「……………シウス?」
問いかける様に呼んだ名前に、ようやく安心した様な笑みを見せた
「今日は驚いたわね」
深夜、お互いの仕事を終えて語り合ういつもの時間
「ほんとになぁ〜」
昼間の出来事を今日は2人で笑いあう
原因は根拠の無い只の夢
ラグナが他の誰かと一緒にいて、自分では無い子供の父親で………
そんなあり得るはずのない夢の話
『んな事あるはずないだろ』
驚きのあまり、怒鳴り漬ける様にそう宣言したら、安心してそのまま眠ってしまった
「でも、子供って案外敏感よ?」
「それこそ、ありえねぇぜ」
意味深に笑うジュリアに、ラグナが苦笑を返した
そうして、誰かの悲鳴が上がる中穏やかに夜が更けていく