夜の幻
 
 
冷えたシーツの手触り
生命の気配のない家
背中にあたる、堅い壁の感触
静寂の中、宙を見つめる

何もない空間
あたりを包む暗闇
はるか遠く聞こえる物音
まなざしは、ありもしない光景を見つめる

明かりひとつ無い部屋に幻が浮かびあがる
柔らかな光
暖かな温もり
家族の笑い声
過去の情景
永遠に続くはずだった幸せな時間

暗い部屋の中で、シーツの上を手が滑り落ちる
冷えた手触り
ほんの一瞬現実へ引き戻す感覚
おびえたように、微かな身動ぎ

そして、未来の光景を見る
あり得るはずのない未来
子供達と、自分たちと……
幸せに暮らす未来
手に入れるはずだった、幸福な世界

窓の外、遠くから、鳥の鳴く声が聞こえる
わずかに差し込む明かり

幻の光景が消えていく
幻聴も聞こえない
光が現実へと引き戻していく

世界が明るく照らし出される
すべての幻は消え去り
ただ一人、冷たい部屋の中に取り残される

太陽の日差しに、まぶしげに目を細める
ゆっくりと堅い壁から背を離し
そっと目を閉じる
寂しげに、悲しげに…………
幻への分かれる告げる瞬間

立ち上がり、足を踏み出せば
またいつもの現実が始まる
 
 

 


幻を見るのは夜
誰にも邪魔されず、一人きりになれる時
このわずかな一時、幸せな光景を夢見る
 
…………って書くと、表のお話が夜にみている幻になっちまうな(^_^;