日に幾度となく耳にするピアノの音
彼女そのものと言える音は、耳にする度に心が落ち着く
練習の為に成らされる音
時折生じるミス
合わない音
途切れる音楽
―――こんな音を聞けるのは、自分達だけ
そんなことは当たり前
そんな当たり前の事が、凄く嬉しい
だから、時折手を止めて音に聞き入る
完璧な演奏も
どこかつたない曲も
単なる音の羅列だって
彼女が紡ぐ音なら全てが愛おしい
だから、引き寄せられるみたいに扉の前へ足が進む
扉の外に聞こえる賑やかな声
家の中を走り回る軽やかな足音
それに続いて聞こえるゆっくりとした足音
足音に逆らって、慌てたように名前を呼ぶ声
大切な人が紡ぎ出す音
繰り返される毎日の日常
仕事の為に閉じこもった扉の外で、時間を置いて聞こえてくる音の数々
家中に響く物音
名前を呼ぶ声
そして、何かが倒れる音
―――静寂なんてあり得ない、我が家の物音
辺りに満ちる生活の音
近くを通り過ぎる賑やかな気配
心が感じる幸せ
だから私は瞳を閉じる
聞こえる音に耳を傾けて、滑らかに動き出す指
笑い声に合わせて刻まれるリズム
導かれる様にしてできあがっていく曲
暖かくて、明るくて―――
まるで、貴方の様な曲が出来上がる
「新しい曲ができたわ」
そう言ってジュリアが笑う
日々完成していく、表に出ることのない曲
賑やかで楽しくて、暖かくて優しい
新しい曲に、小さな質問をしたのは昔のこと
―――歌にしてださないのか?
「コレが今日の記録よ」
―――個人的な日記を見せびらかす人なんていないでしょ?
文字を綴るように、紡がれる曲の数々
俺達上に刻まれた時間の記憶
久しぶりに更新、ジュリアとラグナです