遺産


 
月日は、世界に活力を取り戻させていた
以前と同じようにとは行かないが、活気に満ちた街
破壊された世界は色を取り戻し
新しい生命が次々と生まれ出ている
ロックは、露店の側を歩き去ろうとした
うん?
並べられた籠の中に見たこともない食べ物が入っている
「これは、なんだ?」
ロックの問いかけに店主は、籠の中をのぞき込む
「ああ、それかい?新しく見つかった果物だよ」
甘くて美味しいんだが……
店主の言葉が濁る
……だろうな……
ロックは、果物を見つめる
グロテスクな色彩、気味の悪い形……
いくら美味いって言われても食べたいと思えないよな
………美味しい?
「………食べたのか?」
「……これも仕事だからね」
二人の間に冷たい空気が流れた

……食べる勇気はないよな……
ロックは、強引に店主に貰った不気味な果物を手に困り果てていた
自分で食べたくはないのはもちろんだが、コレを誰かに食べさせるということも出来そうにない
だからといって捨てるっていうのも………
こんな物でも食べられる限り勿体ないと思う
「こんな物よく食べる気に……」
こんな物でも食べなければ生きていけない時代は、僅か前の事
すべてが死に絶えた世界では、植物も、動物もその姿を消していた
あの時代増える事ができたのは、生命力が強いモノ
生きていけるよう、いち早くその姿を変えたモノ
生き残る為に、危険を承知でそれを食さなければならない時は確かにあった
「甘くて美味しい、か」
巨大な影が日差しを遮る
世界は復興を続けている
ケフカの残した爪痕は、次々と姿を消していく
ロックは目をつぶり、果物を口へと運んだ
甘い果汁が口の中に広がる
美味い
「見かけだけで判断できないもんな」
この果物も必死で生きた命
世界が平和になっても、あの時が無くなった訳ではない
柔らかな日差しが降り注いだ
ロックはゆっくりと歩き出す
忘れてはいけないんだ……
忘れない為にも、この果物は必要なのかも知れない

街を離れロックは家路を急ぐ
手にはおみやげの果実
今日は、あの時の事を振り返ろう
そして、平和な世界が長く続く様に………
 

 
END