招待状


 
始まりは一通の招待状
中身を読み終えたロックは、複雑そうにセリスにそれを渡した

  新作のオペラを上演したいと思います
  当方におきましては、是非とも皆様方にご来場頂きたく
  講演前の下記期日にご招待致したく存じます
  勝手なお願いと思いますが、是非おいで下さる様お願い申しあげます

「オペラ座からの招待状?」
「ああ」
セリスは、ロックとは逆にうきうきした気分になる
二人にとってオペラ座は特別な場所だから
「どうするの?」
ロックを見つめる視線に力が籠もる
もちろん、行くわよね?
視線の先で、ロックがため息をつく
「是非って書いてあるからな………」
口調でも、態度でも気乗りがしない様子がはっきりと見て取れる
………解らないでもないけど……
そう、過去にオペラ座で起きた事を考えれば、ロックが躊躇う理由も解る
「なら、お隣にお願いして来ないとね」
何の事か分からないといったロックの表情
オペラ座でしょ?
「流石に連れていけないわ」
セリスはロックの背後へ視線を移す
釣られた様にロックもまた視線を移し……
彼女は、両親の注目が自分の元へ集まった事に気づき、小さな歓声を上げた

「元気そうだな」
扉を開いたロックの向こうに、懐かしい顔が集まっている
同じように招待状を受け取ったであろう仲間達は1人も欠ける事なく集まっている
「お前も、元気そうだな」
時間を感じさせる挨拶はそれだけ
後はほんの何日か会わなかっただけの様に会話が続く
「ところで、今日のオペラってどんな内容なの?」
そう言えばどんな内容か聞いてなかったな……
可憐な少女へと齢を重ねたリムルの言葉にセリスは自分もまた、その内容を知らない事に思い至った
「そう言えば私も聞いてないな………」
それまでの騒ぎが嘘の様に収まって、みんなで顔を見合わせる
……結局だれも知らないのね……
確かに招待状には、何を上演するつもりなのか一言も書いていなかった
……けれど………
「なぁ、あの招待状、あんたのしわざじゃないのか?」
エドガーに向かってロックが言う
私もそうだとばかり思っていた
「いや、今回のは私ではないぞ」
再びみんなで顔を見合わせる
「そんなに難しく考える必要ないんじゃないか?」
静まりかけた所にマッシュの明るい声が響く
「どういう事だ?」
「差出人は支配人だったじゃないか」
………………
「確かにその通りだったな……」
そう言われてみれば、確かに支配人の署名が書き込まれていた
でも………
「またエドガーが、支配人の名前を騙ったんだとばかり思ってたな」
ロックの呟きに皆が頷いた事は言うまでもない

静かなノックの音と共に支配人が現れる
笑みを湛えた支配人の言葉
その出し物の内容に彼等は一様に絶句した
そして………………

「まぁ……まともな出来だったんじゃないか?」
「拙者は少し、その………」
隅の方で小さく呟く仲間達の姿
「……まさか、こう来るとはね……」
腕組みをしたリムルが難しい顔をしている
「でも、少し嬉しいかな……」
小さく囁かれたティナの声は、きっと他の人には聞こえない
セリスはクライマックスへ向かう舞台へ視線を移した
そこには、昔の光景がある
最後の戦いの場面
今回のオペラは、あのときの事
鮮やかによみがえる光景と共に、彼等はいつしか無言で舞台に見入っていた
 
 

 
END