門出
天窓から、光が射し込んでいる
殺風景な石造りの部屋の中
覗き込んだ視界に、飛び込んでくるのは純白
上空から降り注ぐ光が、空気に反射して、きらきらと小さな光を彩る
人の気配に、その人はゆっくりと顔を上げた
息を詰めて見つめる彼へ、彼女は、恥ずかしそうに微笑んだ…………
舞台には、祭壇が準備され、そして、客席には、僅かな招待客
オペラ座の舞台の上、ひっそりと、豪華に式は執り行われた
セリスの耳に、呆れたような、諦めたような複雑そうなロックのため息が聞こえる
仕組んだのは、かつて共に命がけの旅をした仲間達
セリスは、仲間達の手に寄って無理矢理正装させられたロックをそっと伺い見る
強張った顔が、まっすぐ正面を睨み付けている
緊張している?
そして……
控え室で顔を合わせたきり、ロックがこちらを見ようとしないのは、きっと照れているせい……
強い照明が、天井から降り注いでいる
気むずかしそうな表情は、困惑しているせい
祭壇の向こう側には、首謀者のエドガーが居る
心の動きがこんなにも解るようになったのは、長い間一緒にいたから
張りつめた空気、低く響く声
一緒に旅をして、当たり前の様に生活して……
何も言わないし、何も言われないまま、共に暮らしていた
村の人々は、当然の様に夫婦だと思われていて……
『何を今更』
まるで誘拐されるかの様に、セッツアーに連れ出されたたのは昨日の事
『まだ式は挙げてないんでしょ?』
リルムに言われて、そう言ったあなたの言葉に免じて、明確な言葉を貰っていない事は言わないでおこう
ほんの僅かな静寂が訪れる
ロックの口から、その言葉が発せられる
神聖な誓いの言葉
私も同じように、その言葉を口にしよう
言葉が、声が、微かに震える
“今更”だったはすなのに……
開けた視界の中
頭上から、きらきらと光の粒子が降り注ぐ
ぼやける視界の中、まぶしさに、目を閉じる
微かな触れる温もり
結婚式
それは、結婚を報告する為の儀式
そして………
不思議な感情が沸き上がってくる
式をしても、今までと何も変わらない
それなのに…………
心の奥で、何かが少し変わった
仲間達の祝福の声
セリスは遠い昔の様に、舞台の上から客席を見つめる
問いかける様に演じた相手は、今隣に
小さな何かが始まった場所で、また新しい何かが始まる
セリスの視線がロックのそれと会う
セリスは、柔らかな笑みを浮かべた
フィガロ王の手によって、貸し切られたオペラ座
その日、オペラ座は、地上からの光を受け、夜の闇の中鮮やかに浮かび上がっていた
夜明けの光と共に始まった賑やかな、祝宴は、ほんの僅かな人間の手に寄って、果てる事なく続けられている
人々は、オペラ座を気にしながら、小さく噂をささやき合う
中にいる人々の事を
中で行われている出来事を………
不思議なオペラ座の一日は、人々に真実を知らせる事もないまま、静かに幕を閉じた
END
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