境界線


 
視線が絡み合う
他の人ならば決して気付かない程度の微かな合図
セリスは同じように合図を返す
そして、同時に足を踏み出す
別々の方向に歩き出す2人に、村人達は気軽に声を掛ける
2人は人々と簡単に会話を交わしながら上手に歩き去っていく
村人が疑問を思わない程度に上手にその場から離れていく
村の中央で、歓声が上がった

祭りが続いている
人々の楽しげな声を耳にしながら、2人は村外れの暗がりの中にいた
広場で燃える火が時折辺りを照らす
こんな光景の中なら、甘い雰囲気が辺りを漂っていてもおかしくはない
だが、2人の間に漂うものは、張りつめた緊張
手の中で、抜き放たれた刃が光を反射した
至近距離から生き物の気配がする
嫌な気配
先に動いたのは、ロック
鋭い一撃が繰り出される
モンスターは、声を立てることなく息絶える
「まさか、こんな時に襲ってくるなんて」
2人の足下にはモンスターの死体
「頭の良い奴がまざってるんだろ」
隙を見て、中に入る事ができる位には賢いものがモンスターの中に存在している
「……そうね……」
人々が浮かれ騒ぐ中、いつもは閉じているはずの門が開いたままになっていて、モンスターが数匹中に入って来ていた
たまたま誰かが閉め忘れただけなのだろうけど……
いつもなら考えられない事、でもこんな日には、うっかり忘れる事もあるかもしれない
空を見上げてセリスは、そっとため息を吐く
一歩村の外へ足を踏み出せば、そこはモンスターの住処
人は壁を築き、最小限の安全の中で身を寄せ合って暮らしている
門の中へ入り込もうとしていたモンスター達の動きが止まる
思考に気を取られていても、戦士として鍛えたセリスの身体は無意識のうちに動いていた
そして、隣にいるのはロック
2人の働きに敵わないと思ったのか、モンスター達が、遠ざかっていく
「諦めたみたいだな」
「そうね、これで一息つけるわ」
2人は視線を合わせる
「閉めてくるよ」
「ええ、ちゃんと見張ってるわ」
だから、気をつけて行って来て
ほんの一瞬の間に、声に出すことなく会話が交わされる
ロックは、モンスターが再び襲ってくる前に門を閉じる
「すぐに戻るからな」
セリスは門が閉じられる迄の間、もしモンスターが襲ってきた時の為にこの場に残る
身を翻し、急ぎ立ち去るロックの姿が視界の端に見える
そんなに急がなくても大丈夫なのに
柔らかな笑みを浮かべ、セリスは剣を構えた

開いていた門がゆっくりと閉じていく
セリスは剣を納める
ロックがセリスを呼ぶ声がした
穏やかな優しい声
閉じた門の中で、平穏な時間が訪れる 

END