砂の記憶


 
闇に沈もうとする意識の中
そっと扉が開く音がした
そして、人の近づく気配
良く知った気配
私は安心して、眠りに落ちる
小さく、耳に飛び込んでくる音
浅い眠りを深く誘う様に、何度も、何度も
さらさらと小さな音がする
眠りに落ちる前の意識が、聞こえて来る音を追う
……………砂のこぼれる音?
この辺に砂なんてあったかしら?
その疑問を最後に意識が途切れた

辺り一面の砂
空の上には月が輝いている
月の光に照らされて蒼く光っている
どこかで見たことがある、綺麗な光景
―――どこで?―――
「何か面白い物でも見れるか?」
隣に不意に人の気配が現れる
ロック?
今よりも幾分年若いロックの姿
「面白い物という訳ではないが……」
―――これは、夢?―――
遙か昔交わした事のある会話
あの時フィガロ城からみた景色がこんな感じだった
夢を認識した私に関係なく、昔の光景が繰り返されていく
ぎこちない会話
言うことができなかった言葉
聞くことができなかった言葉
そして、あのとき解らなかった態度の意味
ロックは、あの時と同じように悲しい目で、遠くに見える街の灯りを見つめている
これは夢、過去の光景
そして、ロックは私の視線に気付いて…………
私は、ロックの身体を静かに抱きしめた
実際にはあり得なかった事
あの時は、ただとまどいながら見ていただけ
「セリス?」
とまどった様な声、表情
夢の中で、こんなにもはっきりと思い描く事が出来る
―――これは夢だもの、何も言わなくても良いでしょう?―――
ただ、都合の良いだけの夢にはしたくないから
掛ける言葉が見つからない
やがて
夢の中でロックが、何かを言ったその時、目覚めた

側で眠り続けるロックの姿がある
セリスは小さな笑みを浮かべる
あのときから様々な事が起きた
歳月を重ね、出来事を重ねて、過去の出来事も違う角度から見る事が出来る様になっている
だから
もう、後悔はしていないわよね?
穏やかなその姿に胸の内で語りかける
すでに昇華された思い
ロックから、目を離し、ベットから降りようと床へ視線を移す
床の上に散らばった大量の砂
………これ………
夜眠りに落ちる前に聞いた砂の音
「これが原因みたいね」
砂漠が関連した想い出の中で一番印象深い出来事だったから、あの時の夢を見た
それにしても……
「どこから持ってきたのかしら?」
きっと家中に散らばっている砂を思い、セリスは深いため息をついた 

END