理不尽


 
セリスは、大きく深呼吸をして、心を落ち着けた
今聞いた言葉に悪気はなかったのかもしれない
深く考える事なく、口をついた言葉だったのかもしれない
それでも…………
『かわいそう』
言葉を、首を振って頭の中から追い出す
そんな言葉を言える状況ではないのだから
冷たい夜の風が吹き抜ける
振り向いたセリスの眼に遠く赤く燃える炎が見える
………心配してるかしら?
言われた言葉に腹を立てて……
それでも、しばらくの間は気にとめなかった様に振る舞って
そして、結局は理由も言わずに出てきてしまったけれど……
セリスはため息をついて地平を見つめた
何も解っていない子供に腹を立てるなんて
「私もまだまだ、ね……」

世界を巡る旅の途中、私達は安全な場所を求めて移動する旅人達と会った
相手は、私達が戦う力を持っている事に期待し
そして私達は、一行の中に小さな子供が混ざっている事に気付いたから
私達は求められるまま、その道行きに動向した
旅は順調そのものだった
彼等は、私達が居ることで、はびこるモンスターを必要以上に回避する必要がなくなったと感謝していた
それも、初めのうちだけだった
彼等が持ってきていた食料が底をついた
世界の状態を考えれば、充分な数の食料を持ち出せなかったのは仕方がない事なのかもしれない
もちろん手持ちの食料を分け与えはしたけれど……
2人分の食料では足しにはならない
凶暴化し、モンスターと化した動物たちの集団が襲ってきたのはそんな時だった
戦わなければ、自分達の命が危ない
大人達は、武器を手に必死で戦っていた
そして、どうにか彼等を倒し背に腹は代えられないとの思いで、モンスターを解体し食料にする事を決めた
「かわいそう」
当面の食事として、調理していたセリスの耳にそんな子供の声が飛び込んできた
振り返ったセリスの背後に小さな少女が立っていた
「どうしてそんな酷いことするの?」
少女は非難する様に、セリスを睨みつけた
え?
とっさに何を言われたのかセリスは判断できずにいた
「動物殺すなんて、最低っ」
突き刺すような視線
セリスは強張った笑みを浮かべた
返事を返そうとするが、なかなか思うようにいかない
気が付いた大人達が少女を連れ去るまで、セリスは不当な言葉を受けた

「セリス」
長い間立ちつくしていたセリスの意識が引き戻される
「……ロック?」
ロックは手に荷物を持っている
「……行こう」
一声かけると、野営地に背を向けロックは足早に歩き出した
え?でも………
とまどった様なセリスの視線の隅で、炎が強く燃え上がる
数を増していく赤い光
それは取り囲む様に増え続けて……
「セリス……」
少し離れたところでロックが立ち止まっている
「護衛はしなくても良いの?」
「もうすぐ行き先が別れるだろ?」
そう言って、ロックが微かにため息をついた
「これ以上迷惑はかけられないって言ってたな」
え……?
セリスは目を見張り背後の灯りを振り返る
「行こう」
ゆっくりと歩き始めたロックの後をセリスは無言で歩く
気をつかった、それとも私達には食料を渡したくない?
小さく首を振り、セリスは後の考えを追い払った
少し前を歩くロックの元へ足早に進む
真意は解らない
それなら、良い方に解釈しよう
セリスは前をまっすぐ見つめた 

END