訪問者


 
それは、真夜中の出来事
ロックが小さな旅に出ていた夜の出来事

小さな音でセリスは目を覚ました
……何の音?
まだ目覚め切っていない意識が、音を認識する事を妨げている
遠慮がちにそっと扉を叩く音
……え?
叩かれていたのは玄関の扉
急用!?
セリスは慌てて飛び起きる
でも、その割には静かよね?
急用であるならば、もっと切羽詰まったような音がするはず
ほんの少しの躊躇の間に、扉を叩く音が止んだ
あ、いけない
緊急とまではいかなくても用事がある人だったのかもしれない
セリスはベッドから降りると、慌てて玄関へと向かった

灯りをともし、扉へと手を掛けたセリスの手が捕まえられた
!!
とっさに振り払おうとした手が止められる
「物騒だな」
聞き慣れた声が耳元で告げる
「……ロック!?」
振り返えると、ロックが笑っている
「……どこから入ってきたの?」
扉は鍵が閉められたままだ
それとも、鍵を持っていた?
ロックは笑って背後を指さす
「2階の窓の鍵、開いてたぜ?」
いたずらっぽい微笑み
「え!?」
慌てて、セリスは階段を駆け上がる
軽い足音を聞きながら、ただいまの言葉を言い忘れたロックは、困ったように
「もう閉めたんだけどな………」
そう、呟いた

「それで、どんな感じだったの?」
ほのかな灯りの中で、声を潜めて話を交わす
「だいぶ良くはなってるけど、まだまだかな」
熱いお茶がそっとテーブルの上に置かれる
「あっ、そう言えば、北の荒れ地が草原になってたぜ」
こんどみんなで行こう
「いいわね、それ」
長い間村の外に出ることがなかった人達の事を思い、セリスは笑顔で答えた

そして、数日後村人総出のピクニックが決行された

END