ささやかな幸せ
炎の匂い
木の爆ぜる音
暮れようとする光の中、たき火を起こし野営の準備が整った
旅を続ける中、食事の支度は当番制になっていた
今日の当番は、ティナとセリス………
それは、偶然の組み合わせだった
干し肉や乾燥させた野菜
それに釣り上げたばかりの魚が数匹
以上が今日の食事の材料
「……それで、何を作る?」
新鮮な魚を手にセリスはティナに問いかける
「何って…………」
セリスの問いかけにティナは困惑して、食料を見つめる
頭の中に、様々な料理が浮かんでは消える
様々な料理が浮かんでは消えるのに、ティナはその名前を知らない
それに作り方も、解らない
「……何が作れるの?」
それ以上に、どんな料理に何が使われているのかも良く解らない
「………………何って」
とまどったようなセリスの声
「……………」
困ったように目を合わせる
そして、2人の間に訪れたのは長い沈黙
「どうにかなるわ、きっと……」
言い聞かせるように呟き、料理を始めたのはセリスが先だった
魚の焼ける香ばしい匂いが辺りに漂っていた
同時に焦げた匂いも……
手渡した料理を見つめ、仲間達は絶句している
できあがった料理は、焼き魚に底の焦げた煮物
「…………食べない方が良いかと思う……」
「…………ごめんなさい」
沈黙に耐えきれず、発した言葉は同時だった
仲間達のばつの悪そうな顔
意を決したように手が伸ばされる
「美味いじゃないか」
焼き魚を口にしたロックの言葉
隣で、セリスがほっとしたように力を抜いたのが解る
「これくらいなら簡単だから……」
ティナは重いため息を1つついた
『焼くだけならなんとかなるわ』
内蔵を取り、火であぶる
セリスが簡単だと言ったその作業さえ、ティナには上手く出来なかった
ティナは、そっと鍋をかき混ぜる
料理の仕方、見ておけば良かったな……
今までも料理当番はまわってきていたけれど、言われるままに相手に任せていた
これ、どうしよう?
鍋から焦げ付いた肉の塊を掬い上げる
「そちらの料理も貰えるかな?」
え!?
声に振り返ると、エドガーが笑って皿を差し出している
「……でも……」
こんな状態なのに?
「どうか、食べさせて貰えないかな?」
とまどうティナにエドガーは小さく耳打ちした
その翌日、エドガーは仲間達の前に姿を現さなかった
END
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