祈り


 
秋の夕暮れ時
人々は楽しげに広場へと集う

毎年毎年、少しずつ回復してきた世界は
今年一番の実りを人々へともたらした
人々の顔には笑顔が溢れ
長い間行うことのなかった風習を思い出した
そして今日、収穫祭が行われる

挨拶を交わす人々の手には、今年取れたばかりの作物が抱えられている
穏やかな気候
暖かな秋の日差し
誰もが明るい笑顔で宴の準備を進めている
収穫祭
 ――――豊作である事への感謝の祭り
子供達へ説明する言葉を耳に挟んだ
感謝の―――
聞くともなしに聞いた言葉に、ふと足を止めた
―――誰への?
ふとわき上がった疑問
立ち止まったその脇を楽しげに子供達が走り抜けていく
広場に並べられてる料理の数々が目に入る
人々が明るく挨拶をして通り過ぎていく
ほんの小さな疑問は、きっと聞いてはいけない
聞いてしまったら、きっと、雰囲気が壊れてしまう

村人達の真ん中に、探していたその姿を見つける
疑問に答えてくれる人
彼だけは、どんな事を聞いても、大丈夫だから
人の輪の外から、そっと手招きをする

「どうしたんだ?」
いつもと変わらない声
人の気配がないことを確認して、小さな声で疑問を口にする
ほんの少しの間
考え事をしている時の仕草
「………………」
やがて明るい笑顔で、ロックは、言葉を返した

収穫祭の夜
広場にともされた篝火の下で、人々はにぎやかに笑い、歌う
時々、村の老人達の口から、感謝の言葉が漏れ聞こえる
セリスは、その声を聞き、優しい微笑みを浮かべる
『自然や平和………身近な人への感謝、じゃないか?』
セリスの疑問に答えたロックの言葉
老人達のつぶやきは、ロックの言葉を裏付けるもの
広場の中心でセリスを呼ぶ人々に笑顔で手を振る
そして
空の上、小さく輝く星を見上げ
感謝の祈りを捧げる

―――来年もまた……………
地上から空を照らす灯りに、星が小さく瞬いた

END