異質
旅の途中で立ち寄った小さな村
いつものように、宿をとり
いつものように、それぞれが村の中へと出かけていく
誰かと共に、またはただ1人で
息抜きと、情報収集
いつの頃からか決められた暗黙の了解
「ただいま」
言い慣れない言葉をちいさくつぶやいて、扉を開く
薄闇に包まれたままの無人の部屋
「……帰っていない?」
半ばほっとした気分で部屋の中へと足を踏み入れた
未だ慣れることのできない習慣
自然に口にできない言葉
自分がほっとしたという事実に、暗い気持ちで、部屋を横切る
―――声をかけるということ
―――声をかけられるということ
無意識に発せられる言葉が
何か、自分が異質な存在であることが強調されるかのように……
窓の外から赤い光が射し込んでくる
夕日を見つめながら窓辺に近寄り、ガラスへふれる
ひんやりとした堅い感触
目を閉じて頬を寄せる
―――気持ちを落ち着ける様に
―――気持ちが落ち着くように
ガラスへゆっくりと、熱が伝わっていく
温もりに開いた目に、夕闇の中を歩く人影が見える
見覚えのある姿
反射的に窓から飛び離れる
軽い緊張
呼吸を整え、真剣な面もちで扉を見つめる
帰ってきたなら
音を立ててノブが回る
全身の神経が、開かれる扉へと集中している
戦いの時よりも、真剣な時間
長い、一瞬
開かれる扉
「ただいま」
聞こえた声
私は――――
無人の部屋に灯りがともる
特に決められていない時間
それぞれが、それぞれの時間に
仲間達の元へと戻ってくる
END
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