食事
それは草木も寝静まる真夜中の事
足音も無く、気配も無く、不意に現れる一つの影
灯り一つつけず、迷うこと無く歩く
物音一つしつない暗闇の中に、扉を開ける音が微かに響く
続いてカサカサという紙の音
長い間続いていた音は、次第に大きくなり……
人影ががっかりしたように肩を落とした
部屋の中で蝋燭の灯りが微かに揺れる
ジャガイモが2つ
「……腹減ったなー」
真夜中、家人が寝静まった後の帰宅
予定よりも数日早い帰宅に、食事が用意されているはずも無く
何か口にできるモノを、と探しては見たが、それも見つからない
手の中のジャガイモを見つめながら、ただ座っている
別に何か、食べたいものがあるわけじゃない
とりあえず、空いた腹が納まればそれで良い
いつも野営でしている様に火を通せば済む事
食事を求めて、腹が小さな音を立てる
億劫そうに腰を上げて……
意味も無くうろうろと流しの前を歩き回る
なんか、食いたいんだけどな
鍋を手に取り、元の場所へと戻す
……面倒なんだよな
窓の外には、薄い光
結局、手の中のジャガイモをテーブルの上に置き、足音も立てずに出て行った
太陽が空へと昇り出した早朝
横に眠る人の姿に目を見張る
ぐっすりと眠るその人を起こさないよう気をつかい
足音殺し、気配を殺し、ベッドを抜け出す
朝の静けさの中、小さく扉の閉まる音がした
テーブルの上に投げ出されたジャガイモ
使われた気配の無い調理道具
彼が眠っている階上を見上げ、不思議そうに首を傾げる
料理ができない訳ではないから
……疲れていたの?
考えられる事はそれ位
やがて、リズミカルな音が響いた
光が陰り、太陽が沈もうとする夕暮れ
眠り続けていた彼は、ようやく目を覚ます
階下から流れて来る美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる
引き寄せる様に足が向かう
ロックを出迎えたのは、テーブルの上に並べられた料理の数々
そして、どこか得意そうな顔をした、セリスの笑顔
END
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