自我


 
何かが起きてる……
私の知らないところで…………
長い間、私は白い靄の中に存在している
何も聞こえない世界
何も見えない世界
……何も存在しない世界
極たまに聞こえてくる音
それは、水の中で聞いてるみたいに不明瞭
極たまに見える光景
それは、霧の中で見ているみたいに不明瞭

意識が浮上した
目に入ったのは………………
ここは、何処?
ここは………何?
今までの世界と違った光景
目に見えるのは……天井
私はボンヤリとその様子を眺める
『あやつりの輪』
いつの間にか現れていた老人が告げた単語が耳に響く
身体の奥から感じるざわりとした嫌な感覚
これはいったい何?
……私には何も……
「何も思い出せない………」
不意に聞こえてきた激しい物音
こんなにも明瞭な物音
声が何かを告げている
なんだろう?
訳がわからないまま、私は、追い立てられる様に逃げ出していた

私は何をしたの?
いずれ戻る記憶って何?
足に触れる岩の感触
土の匂い
私は自分自身に問いかけながら、言われたままに逃げる
不意に脳裏の奥に現れる光景
耳の奥に聞こえた音
突然、私の意識は途絶えた

意識を取り戻した私の側には1人の男性が居た
彼と……ロックと私は会話を交わした……のだと思う
「守ってやる!」
私はその言葉をぼんやりと聞いていた

戻らない記憶を抱えたまま、ロックに導かれるままに旅をした
旅の間に語られる事
当たり前のように行われる事柄
…………知らないことばかり
ロックは私のとまどいを誤解した
戻らない記憶は、思い出せない訳ではなくて……
私には、記憶がほとんど無い
旅をする間、私は、私が異質な存在であることを知った
漠然とした不安を抱えながら、私は砂漠の城へとたどり着いた

交わされた言葉
……交わされた会話
理解できない事、知らない事
そして、訳がわからないまま砂漠の城を逃げ出した
私の力が必要って、どういう事?
私はまだ何も知らない
私がいったい何なのか、まだ何も思い出せない

END