治癒
人々の恐怖の源
―――辺りにはびこるモンスター
―――絶える事のない病気
―――癒すすべの無い怪我
怪我を負った人々の姿
辛そうなうめき声が辺りに響く
重く暗い表情で、気休め程度の手当が施される
荒れ果てた世界は
草木が枯れ、生物が姿を消した
徐々に復活の兆しを見せ始めているとはいえ、元に戻る為には数百年の歳月が必要だろう
大切に消費してきた薬草も、その数を大きく減らしている
薬草となる草木を見つけだす事ができない
せめて、魔法が使えたら良かったのに……
暗く沈む人々の様子を眼にし、セリスはため息をついた
とぎれがちに聞こえた微かな呟きにロックは顔を上げた
視線の先には、沈んだ顔をしたセリスの姿
消えてしまった魔法の力
……確かに、あの力があれば傷を治す事など簡単にできた
けれど………
ロックは静かにその場を後にした
1人1人に声を掛けながら
傷口を押さえ、清水で清め、血止めをする
ひどい怪我を負った者には、薬草を…………
明るく微笑み掛けながら手当を施していく
…………力があれば、こんな辛い思いをさせなくてすむのに
日に日に思いは強くなっていった
モンスターが多数生息する立ち枯れた森の奥へ
ロックは、1人足を踏み入れていた
もう、此処以外残っていない……
携えた剣がモンスターの体液に塗れている
村の周囲にある主な場所はもう探し尽くした
枯れ果てた木の枝が足の下で砕ける
遠くで、逃げ出す生き物の気配
長年の勘が、この場所が怪しいと告げている
そろそろ見つかるはずなんだ
薬草を求め、ロックはここ数日森の中を彷徨っていた
枯れ果てた森の奥深く
僅かな水がしみ出す泉
その側に、緑の草が見えた
あの日世界の各地から消えてしまった魔法の力
為す手段なく、嘆き悲しむ人の声
消え去った不思議の力には
怪我を治す事ができるモノもあったのに…………
戦いの最中幾度となく唱えた魔法の言葉が、無意識の内にセリスの口からこぼれ落ちた
土から掘り起こされた緑の草木
夕闇が辺りを染める頃、ロックは大切そうに植物を抱え村へと戻ってきた
沸き上がったのは歓声
声に驚き、セリスは建物の中から顔を出した
ロックが見つけだしてきたのは、ポーションの材料にもなる薬草の一つ
それはすぐに使われる事はなく、村の片隅で大切に育てられる
ゆっくりと施されていく治療
魔法が使えれば、あっという間に治ってしまう傷
『魔法の便利さを知ってる人は居ない』
手当を手伝うセリスの脳裏にロックの言葉が思い浮かぶ
『知らない力を欲しがる者は居ない』
薬草の存在に人々は笑顔を浮かべる
魔法が存在しない事
存在するのは、微かな自然………
きっとこれが、当たり前の生活
END
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