秋の気配


 
 
遠く海から吹く風が髪をさらう
………?
つい先日まで、べたつくように纏付いた風が、今は身体を心地よく撫でる
浮かんだ不安はすぐに消える
何かの異変を感じ取るよりも先に、ちょうど一年前の季節を思い出したから

視線が、ゆっくりと辺りを巡る
昨日と変わらない光景
傍に咲いた草花は、みずみずしい緑色をしているし
道を行く人の格好だって変わらない
傍にある風景は何一つ変わらないけれど
風だけが変化を運んで来た
 

ふと見上げた空の色が違う
―――っ
重く暗い、見ているだけでかなしく成るようなそんな空の色
無意識の内に詰めた息が吐き出される
嫌な気配を感じるよりも早く、見慣れていたはずの空を思い出したから

確認するように、辺りを見渡す
いつもと変わらない世界
空を行く鳥は、優雅に舞っているし
遠くから聞こえる声は、軽やかに笑っている
自身を取り巻く世界はいつもと同じだけれど
空が告げたのは、新しい始まり

ほんの少し肌寒い気配
高空に秋の風が吹く



 
 
END