「今更だよなぁ〜」 窓の外に視線を向け、ぶつぶつ、ぶつぶつと、ラグナはつぶやき続けていた。 窓の外には、綺麗に晴れ渡った空、その空を我が物顔で占領し人々に恐怖をまき散らしていた不気味な物体はどこにも見あたらない 街の中にまで進入し、人々にその牙を向けていたモンスターもあらかた方がついた。もちろん、ソレと同時に攻め込んできた、他国の兵士も全部追い出した 心の底から平和を実感出来る、そんな恵まれた日であると言うのに、ラグナは、その空を見上げながら暗雲を背負い込んでいる 「17年は長いよなぁ〜」 ため息と共に呟かれる言葉 ラグナを初め、エスタの人々にとって何十年という年月に渡り長く続いた「魔女」騒動は、世界中に混乱を生み、すべてを戦乱に巻き込んでそうして、ようやく決着がついた この世界から、邪悪な魔女は姿を消した。そして、そう遠くない未来に世界そのものから魔女という存在は消えていくだろう。その力を時間の流れに閉じこめられるが為に…… ラグナの後ろでは、人々が忙しそうに働いている 戦争が終わったからといって、すぐ元の様に戻る訳ではない。戦争が生んだ悲劇は、争いが終わったからといって直ぐに片づく訳もなく。雑務の処理やその他にもいろいろやらなければならない事が存在する そんな中、ラグナは、何をする訳でもなく、窓辺にたたずみ、悩み事を呟き続ける ラグナ個人的な悩みもまた、長く続いた争いの為に生まれたもの。この状況を目の前に見せつけられてから、『アデルさえ大人しくしてれば』の言葉を何度となく繰り返していたものだ 本当はそういう問題では無いことは、もちろん本人が一番良く知っている。だから、珍しく、何時間も、何日も、同じ事を繰り返し呟き続け、悩んでいる はたから見れば窓辺でつぶやき続ける男というのも、いやな構図なのだが、周りの者はいい加減慣れたらしく、何事もないかの様に振る舞う 「もっと子供の頃だったらなぁ……」 長い戦乱も終わり、窓の外に見える人々は誰もがもたらされた平和を噛み締めている 17年前に一度この手で決着をつけたはずの戦乱、それは、本当の意味での決着ではなく、いつ同じ事が繰り返されるかも知れないという、不安を絶えず内服していた そして、強大な支配者を失った事による混乱は大きく、その混乱から人々が逃れる為に、ラグナはいつのまにか大統領というポジションに収まっていた それから、17年間ラグナは、「魔女」を見張っていた。それは、エスタの人々の為に、とか、世界の為にとか、大統領だから、とかそう言った立派なモノではなく、とても個人的な理由からだったのだけれど 「あの年だと……親は必要ないよなぁ〜」 息子は、レインに似た少年に成長していた すべてが終わったら話を……… 彼の手により決着はついた。だが、まだ「すべて」が終わった訳ではない あの時、ラグナは「すべてが終わったら」とそう行ったのだが、ラグナにとっては、話をしない限り「すべて」が終わる事はない でもな……… 「俺なんか、足元にも及ばない位立派になってるしなぁ〜」 いまや彼は、世界をその手で救った英雄、生まれてこの方会ったこともない父親の存在など、気にもしないんじゃないだろうか? 「魔女」の問題に決着がついたなら……、そう思い続けて、長い時間が過ぎた。魔女「アデル」をどうにかすればすべてはうまく行くと思っていた。それが、結局大切なモノを見失う事になった。 結局、自分には何も出来ないまま、ただ時間が過ぎていった 「………話たいよな……」 話たいことは山の様にある。そして聞きたいこともたくさんある。 彼が知りたかったら話すのではなく、良かったら話をしようでもなく、本当は、ラグナが話がしたい。彼がどんな生き方をしたのか知りたいし、自分達の事を、ラグナ自身の事を知っていて欲しい そして何よりもあの時彼が聞こうとした、レインの話もこんどこそしてやりたい。一緒にレインの元に訪ねたい 「整理とか、そういう問題じゃなかったんだよな……」 今更の反省と、吐き出される深いため息 『気持ちの整理がつかない』 そう言って、聞かれた時には話す事を止めてしまった。教えられた二重の真実にまだ動揺していたから、目の前に居る彼の存在がその動揺を大きくしていた。 本当ならば、その時に、聞かれたあの時にすべてを話すべきだったのだろう。だが、その機会をラグナは逃した 「………嫌われてたみたいだしなぁ……」 正確には、嫌いだと言われた訳ではない上に「昔は」の言葉もついていたのだが、どうしても、その「嫌い」の部分が気になって仕方がない その上、彼のあの性格では、これから先嫌われる確率が高いかも知れない どうも、昔からああいったタイプの人間には毛嫌いされていた嫌な記憶がよみがえる ……やっぱりダメかも…… がっくりと、肩を落とし、しばしの間深く落ち込む 「認めて貰えなかったら、ショックだよな」 今頃名乗り出ても、そんなものはいらないと言われるかも知れない。彼にとってはエルとは違い、自分は一度も存在していない。 その上……いくらSeeDでこの事件の関係者だったからと言って、それが一番良い方法だったとしても、決戦の場にラグナ自身が向かわせた 「どうすりゃ、いいんだ!?」 叫び声をあげると、頭を抱えて忙しく、部屋を歩き回る。そして、突然部屋の真ん中で立ち止まり、再び歩き出す うろうろと当たりを歩くその姿は、さすがに人々の邪魔になっている だが、周囲の状態を気にする様子もなく、自分の世界へと入り込み、髪をかきむしり、歩きまわり、椅子へと座り込む 「……………」 座り込み、頭を抱え込んだまま、身動き一つしなくなる 先ほどまでの騒がしさとうって変わって、不自然な静けさが訪れる 「…………………」 頭を抱えたまま、ラグナは一言も言葉を発しない。 その姿勢のまま、ぴくりとも動かないその様子に、長引く沈黙に、その珍しい事態にしだいに人々が注目していく 人々の視線すらも、感じる事がないのか、ラグナは、長い時間変わらぬ姿勢で考え込んでいる と、不意に、 「よしっ、決めた!」 叫ぶような宣言と共に、椅子から立ち上がり、その勢いのまま、振り返る 「おい、出かけるぞっ!」 集まっていた人々の視線に相変わらず気づく事無く、極一握りの人間とのみ、話をつける。突然の宣言に慌てる人や呆れる人それらすべてを無視して、善は急げとでも言うように、そのままの勢いで行動を起こす 『とにかく会う、そして、後は謝る!』 出した結論は、至極単純なモノ、この場所で悩んでいた所でどうせ結論は出ない、最終的な決定権はラグナにはない、どうなるかは、話をしてみなければわからない、それなら、とにかく話をしないとならない。だから、ラグナは行動を起こす それを聞けばきっと「結局何も考えていないというんだ」と言われるのだろう、それでも、今まではそれでどうにかなってきた、今度もきっと、どうにかなる 一度決めたら後は勢い、周りの迷惑を顧みずラグナは、初めの一歩を踏み出した 晴れ渡った青空と気持ちのいい風の中、新しい風を生み出して猛スピードで車が走り去る
END
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