雪灯り


 
風が、窓を叩く夜
窓の揺れる音が家の中に響き渡る
聞こえるはずの通りを歩く人の声、足音、物音が降り積もった雪に吸収されている
淡い月明かりの差し込む世界に満ちるのは静寂
静寂に満ちた世界に、陶器のふれあう音が響いた
飲み干したカップをサーバーへと戻し、雪明かりに照らされた、景色を眺める
眼下を歩み去る人の姿
街灯の灯りを反射した雪の粒子がきらきらと輝きながら舞い散る
耳をそばだてれば、静けさのなか踏みしめられた雪が“ぎゅ”っと小さな音を立てる
人影の見えない通りを一定のリズムを刻んで、雪を踏みしめる音が聞こえてくる
聞き覚えのあるリズムに、窓の外へと目を凝らす
雪明かりに浮かび上がった人影が、ゆっくりと近づいてくる
ほのかに浮かび上がる人影
ゆっくりと近づく人影を確認し、口元に小さな笑みを浮かべ、彼は窓辺から離れた

踏みしめる雪が足の下で小さく音を立てる
振り返れば、歩いてきた道筋に一筋の足跡
暗い空から舞い散る雪が、少しずつ足跡を消していく
歩く先の道筋には街灯の灯り、交差する形で残る無数の人々の足跡
その先に、暖かな光をともした“家”が見える
立ち止まり家を見上げる彼の先を、人が1人横切っていく
寒さに背を屈め、足早に歩き去る姿
彼に気付く事無く、その人物は通り過ぎて行った
立ちつくす彼の元へ、絶え間なく雪が降り注ぐ
窓辺に写る人影、誘うように灯りが揺れる
彼はゆっくりと足を踏み出した
一定のリズムで、雪が音を立てる
物音一つしない夜の闇の中に、小さな音が響き渡る
雪明かりに照らされながら、静かに彼は門を潜った

雪の舞い散る夜
静かに扉が開けられた
降り続く雪を積もらせた彼の姿に彼は小さく苦笑する
「“お帰り”寒かっただろ?」
差し出されたのは、乾いたタオルと、柔らかな言葉
暖かな室内に足を踏み入れた彼の背後で扉がゆっくりと閉じた  

END