手持ちぶたさな日


 
忙しく働く人々の姿
いつも通りの光景
悲鳴の様な声を上げて、仕事に取り組む人たちの姿
…………いつも通りの光景?
この日、朝から大統領官邸内は騒がしかった
廊下を走り回る人々の姿
手にはそれぞれの資料を持ち
それぞれの職場と、大統領執務室の間を往復している
廊下には、順番待ちをする人々の長い列
年に一度だけ見られる特別な光景

大統領執務室から続く扉の奥
エスタ政府の重要人物が集まっていた
彼等の前には、一台の巨大なコンピューター
微かな音を立て、データをはじき出している
「特に問題はなさそうですね」
補佐官の声が響き、秘書が1人扉の外へと向かう
扉の向こうから安堵に満ちた声が聞こえてくる
「別に悪い事してねーんなら、びくびくすることもないってのにな?」
「それはその通りですけどね……」
呆れたような声に重なる様に機械音が響く
―――年に一度の監査
エスタ政府に働く人々にさえ分からない仕組みで集められた情報を元に、個々の部署の動向が調べ上げられる
「こういうモノは緊張するモノだろう」
……自分もそうじゃなかったか?
穏やかな言葉に、ラグナは顔をしかめる
「確かに、その通りなんだけどよ……」
雑談が交わされる間も、機械は黙々と処理を続けている
補佐官達は、その結果を照らし合わせ、指示を出す
ラグナは、その様子を見るとも無しにただ見つめている
……こんなことしなくても、怪しいのはオダインの所くらいだろーぜ
薄暗く小さな部屋に閉じこめられているのは、どうも気が滅入る
することもねーし
何気なく天井を見上げた目が、壁を這う一匹の虫を見つける
…………?
無意識に右手が動き、側に居た兵士から短剣を奪い取る
放たれたナイフが、虫を縫い止める
「………………………」
ナイフの軌跡を見守った補佐官達が、何事も無かったように仕事に戻っていく
資料を受け取り、秘書がゆっくりと扉の向こう側に消えていく
「……………暇だな」
黙々とコンピューターがデータをはじき出していく
「……そうですね」
ナイフを抜き取った兵士が、疲れたように返事をした
 
 

END