式典
『式典の警備にあたるように』
何度目かのエスタ政府からの仕事の依頼
スコールは、ため息と共にエスタへと向かった
………?
いつもとは違った雰囲気
降り立ったエスタの地は静けさに包まれている
賑わいを見せているはずの他国からの観光客の姿が見えない
静寂に包まれた街の中を、スコールは目的地へと向かった
相変わらずの、不思議な建物
だが、建物に反射する光が見えない
あたりを覆うただひとつの色彩
静けさの中、風に翻る眩しいほどの純白
白く彩られた街並み
どう言うことだ?
閉じたままの商店街
硬く扉の閉ざされた家々
今日に限っては、辺りを歩く人影すらも見えない
不気味なほどの静けさ
……気味が悪い
建物の中に居る人の気配を感じながら、知らず足早に通りすぎる
たどり付いた大統領官邸もまた、静寂に包まれていた
出迎えに現れた秘書官の足音のみがあたりに響く
いつのなら無数に出会う人々の姿が今日は見えない
………人の気配が薄い
広い建物の中、感じる気配はわずか数人
何が起きている?
スコールは難しい顔をして、彼の後を歩いた
大地に残る傷跡
これは、魔法によるものだろうか?
スコールの前を、エスタの正装に身を包んだラグナが歩いていく
折れた剣の刃、潰れた銃身
錆びた兵器がかつてこの場所で戦いがあったことを知らせている
大地の中央ラグナが足を止めた
長い間目を閉じ、祈りをささげる
静かにたたずむラグナの向こう側に、身を起こすモンスターの姿が見える
スコールは、気配を殺し、モンスターの元へ走り寄る
大地に染み付いた血の色
モンスターへとガンブレードの刃が届こうとする寸前
背後に黒い影が沸きあがる
反射的に飛び下がったスコールの目の前で、モンスターが影に飲みこまれて行く
「そいつは大丈夫だ」
武器を構えモンスターに対峙したスコールの目の前で、影が大地に融けていく
「………どういうことだ?」
半ば答えを予測しながら、スコールは背後を振り返った
遠く鎮魂の鐘が鳴り響く
かつて、魔女との戦いにより、命を落とした者たち
あの場所は、魔女との戦いが………虐殺が行われた場所
彼の地に今も残るのは、人々の想い
大地に残る想いと、今も尚注がれる人々の想い
尽きることのない想いが絡まり、想いが形を成した地
『知り合いや家族の誰かが犠牲になってるんだ』
低く語られた声
過去の悲劇、未だに消えることの無い想い
戦いが行われたこの日に、行われる式典
静まりかえった街に人々の祈りの声が木霊する
『せめてこの日だけは………』
悲しい人々の想い
『ただの感傷ですけど』
寂しげな笑みを浮かべた男の言葉
せめて、この日だけは……
危険なこの地で人々は武器を手放す
武器を持たない人間の為に呼ばれた武器を持つ人間―――
高く低く、鐘が鳴り響く
やがて、聞こえてくる過去の歴史
『矛盾してるって事は分かっているんです』
静かに告げる声
過去に残したせめてもの想い
足早に移動していくラグナたちの姿が見える
スコールは、ガンブレードを手に立ち上がる
距離を置き、スコールは彼等の後を付いていく
矛盾はしているのかも知れない
けれど………………
それでかまわないんだと、そう思う
後ろを振り返ったラグナが、すまなそうに、そして嬉しそうに微笑んだ
END
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