辺りに漂う花の香り ふんわりと優しく香る 家の中にはいつも花が飾ってあって 甘い香りが漂っていた 鼻腔ををくすぐる懐かしい匂い ぼんやりと目を開き、無意識の内に視線が香りの出所を探す 「……………」 ゆっくりと移動した視線は、テーブルの上に置かれた花瓶の上で止まる 巨大な花瓶の中に活けられた花々 無数の花々が優しい香りを放っている こんなのあったか? 覚醒しきっていない頭が、昨日まで存在していなかった事を告げる きっと、眠っている間に置いていったんだろう 「いい匂いだな」 やさしく漂ってくる香りに無意識の言葉がこぼれた 開いた扉の外からも漂ってくる甘い香り 視線の先に飾られた花々 部屋の中に飾られていたモノと同じ花 ゆっくりと巡らせた視線の先にも同じ花が飾られている そこかしこから漂う香り 「こりゃ、すげーな」 目を見張り、ゆっくりと廊下を歩く身体を優しい香りが包み込んでいく どこか懐かしい香り 薫るほどに刺激される記憶 こみ上げてくる懐かしさと……… 引き寄せられる様に活けられた花へと近づく 優しい香り 忘れられない、匂い 花瓶の中の色とりどりの花 小さく咲き誇る可憐な花 ああ………そうか……… そっと、花瓶の花へと口寄せる 大切な人の香り 大切な人が育てていた花の香り レインの匂いだ END
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