トラブル
沈黙の国エスタ
長い間閉ざされていたその国は、蓋を開けてみたらとんでもない国だった
言い伝えられていたモノよりも数段上の科学技術
そして次々と明かされる、彼の国の内部事情
エスタが担っていた役割が明かされる毎に、エスタという国への感心は高まり
エスタ行きの観光が人気を博した
今の話題を集められるのは、“SeeD”と“エスタ”
“SeeD”に対する取材は難しい為か、最近の記事はエスタを取り扱ったものが多い
ただし、エスタの記事なんていっても、取り扱っている内容はたかが知れてる
でも、私は違う、そんな薄っぺらな記事なんて書かない
見てなさい、世間をあっと言わせる様な記事を書くんだから!
私は、握り拳と共に、空へと誓った
「………………って事なんですが、どうしますか?」
今日もまた、秘書官の1人である彼によって持たらされた情報に、ラグナ達は疲れたような笑みを浮かべた
「どうするって聞かれても、なぁ?」
「………そうだな」
なんとも言えない返事をして、彼へと視線を向けると
「……そうですよね……」
気弱な笑みを浮かべ、大きなため息を一つ
「どんな理由をつけても、不法侵入は不法侵入ですよね」
近頃エスタの様々な場所に姿を現す女性が居る
「というか、理由にならないな」
自称“記者”と名乗るその女性は、ありとあらゆる所に顔を出す。
「だよなぁ、何やっても許されるってもんじゃないし」
遠い昔を思い出して、何となく天井を仰ぐ
確かに多少の無茶はしたけどよ
強引に無理矢理ってのはなぁ
他の職員達が、仕事をする雑然とした音が響き渡る
「…………ですよね」
エスタ市内の商店やホテル、住民に突撃インタビューをしている内はまだよかった
「許されるという問題ではなく、犯罪だな」
キロスが淡々とした口調で、口を挟む
3人の間にしばしの沈黙が訪れる
「強制退去で宜しいですか?」
泣き出しそうな顔をして、彼が問いかける
そのうち彼女は、許可無く政府機関へと顔を出し、しまいには国の重要施設へ忍び込んだ
「………ちっと寛容すぎる気もするけどな」
警備兵に捕まり、幼い子供の様な事をわめき散らすが故に判明した数々の事実は、エスタ政府とドール政府の人間が頭を抱えさせた
世間の事は何一つ知らないだだの少女
その上、捜索願いの出された家出娘
申し訳無さそうなドールの役人と、蒼白になった父親と連絡が取れたのは先ほどの事
大罪に値する行為とはいっても、どうにも刑務所に入れるって訳にも行かなくなった
もちろん、忍び込んですぐさま捕まり、今現在はそれなりの場所へと閉じこめられているはずだ
「だが、今回ばかりはそんなものだろう」
どっかの国の軍関係者だの
様々な情報を売り買いする、裏側の人間だの
何事か企てようとしていた犯罪者だの
そういった類の人間ならば、話も早かった
だが、彼女はドールに住む、ただの世間知らずのお嬢様だった
「それでは、手続きをしてきます」
疲れたような足取りで彼が去っていく
「………がんばれよ」
がっくりと肩を落としたその後ろ姿に、励ましの言葉がむなしく響いた
見てなさい、絶対に後悔させてやるんだからっ
私は、遠くなっていくエスタを睨み付ける
凄いスクープを取って、有名になって絶対に
「取材してくださいって言わせてやるんだからっ」
私は、握り拳と共に、海へ向かって叫んだ
「変に有名になると、妙なモノが現れるんだな」
はた迷惑な記者が帰国したとの知らせを聞いて、しみじみとラグナが呟いた
「それは何かが違うと思いますよ」
職員の1人が疲れたように呟き返した
とりあえず、エスタは今日も平和だ
End
|