春浅く
日陰に残った僅かな雪
ガラス窓を通す、暖かな日差し
まだ肌寒い春の1日
「……寒いな」
無意識の内に零れた言葉
同意する声と共に、柔らかな笑い声が聞こえた
気温は騒ぐ程寒くは無い
けれど、次第に暖かくなるこの季節は
決まり文句の様に口につく言葉
今もまた無意識の内の言葉
「なさけないなぁ」
間髪入れずに少女のとがめる声
「いや、だってよ……」
本気で寒いと思っている訳じゃない、なんて言葉を言う事が出来ず助けを求める視線の先で
「本当、情けないわね」
笑いながら返る声
イタズラっぽく見つめる目は
「こーんなに暖かいのにね!」
「ねぇ」
楽しげにきらめいて、助ける気は無い事を教えている
ま、いっちまったもんは仕方ないしな……
「そうは言うけどよ……」
これから続くからかいの言葉が予想できて、言葉は苦笑が交じった
ガラス越しの暖かな日差し
窓の外へと向けられていた頬が日差しに暖められている
遠く植えられた木々へと舞い降りる1羽の鳥の姿
枝の上、微かに見える彩り
後僅か先の季節に咲き誇る花の芽
―――生きているんだなって、そう思えるでしょう?
かつて、柔らかな声が告げた言葉
―――私はこの季節が好きよ?
問いかけるように覗き込んだ瞳
……そうだな
もうすぐ訪れる季節
彼女が愛した季節に、彼女が愛した花を持って………
End
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