そんな日々


 
心地よく響く音の連なり
穏やかな声が語りかける
低く、ゆっくりとした言葉達
紗を通して触れるかの様な、どこかぼんやりとした気配
近づいて、遠ざかって
暖かな何かが体に触れて
ぼんやりと理解する
―――ああ、眠っているのか

いつも賑やかな家の中は珍しく静まりかえっていた
誰に問いかけるでもない独り言を呟きながら、スコールは家の中の気配を探る
「誰もいないのか?」
いつもなら、すぐに顔を見せる筈のエルオーネは居ない
ここに居る頻度の高い、キロスやウォードの気配もしない
ラグナは―――
普段が呆れる程騒々しい相手が、これほど静かな場所に居るとは思えない
………当たり前なら
スコール自身は決して認めないが、慣れた足取りで奥へと進んでいく
暗黙の内に決まった、人の集う場所
庭園に面した大きな居間へと迷うことなく足を踏み入れる
「………居るのか」
扉の正面にラグナの姿があった

良く知った気配が、近づいて、遠ざかって、ほんの少し距離を置いた所に落ち着く
―――これは、安全な気配
覚醒仕切れない意識でぼんやりと下される判断
なんか用事があったら、そう言うだろ
その時になったら起きるからさ
ぼんやりとした呼びかけは言葉になんかなっていなかっただろう
けれどそう言ったつもりで、心地よい眠りの中へと落ちていった

声をかけても、揺すっても起きない
殴りつけようかとして、止めた
別に、強引にたたき起こさなければならない様な用事がある訳じゃない
『いろんな資料が出てきてるみたいよ?』
そんな事を聞いたのは2週間ほど前の事
『なんか必要なモノがあったら持って行って良いぞ?』
そんな連絡が入ったのは1週間ほど前の事
SeeDとしての仕事がたまたまセントラであったのが3日前の事
ここに来たのはただのついで
ガーデンに戻るのは2日間の余裕がある
………急ぐ必要はない
部屋の隅に置いてあるブランケットを投げつけるようにラグナへ掛けてスコールはソファーへと腰を下ろした

ゆっくりと意識が覚醒する
見知った天井がぼやけて見える
紙をめくる音が聞こえて
ラグナは静かに体を起こす
側に合った気配の意識がラグナへと向けられる
大きく伸びをして
「よう、お帰り」
ラグナはスコールへと言葉をかけた
 
 

 End