相変わらず


 
世界規模の脅威は無くなった
けれどモンスターは相変わらずで、人間同士の小競り合いも相変わらず
あんまり平和に成りすぎてやる事が無くなって
ガーデンが成り立たなくなるんじゃないかなんて事を心配していたのは嘘の様
確かに、一時は最低ラインまで仕事は落ち込んだ
確かに、大規模な依頼は少なくなった
けれど、それも一時的なこと
とんでもなく難易度の高い依頼は来ないけれど、相変わらず届く依頼の数々
モンスターがいる限り戦いは無くならない
………人がいる限り戦いは無くならない
キスティスは、バラムガーデンに舞い込んだ依頼を処理しながらため息をついた

あ、居たわね
バラムガーデンの食堂
その片隅に、ある友人達の姿
ガーデンには会議室も、応接室も、学生達がそれぞれ集まる様な場所は適度に用意されているというのに、何故か仲間―――友人達は誰からともなく学食の片隅に集まっている
今日もまたいつもと同じ、相変わらず友人達が顔を揃えている
わざわざ人目が集まる所を選ばなくても良いと思うんだけど
人の視線が煩わしいとか、じろじろ見るなとか
聞かれて困る話がある、とか
そんな文句を言う人物もちゃんとここに存在している
嫌なら場所を移す?
そう聞いたのはセルフィだったと思う
結論は
「皆揃ってるわね」
相変わらずここに在る姿
キスティスがかけた声に幾つもの返事が返った
いつもの光景、相変わらずの光景
それが幾日も前の事

そして、あの日から時間は過ぎて
いつもの場所、いつもの光景
いつもの光景だけど、それは形を変えている
確かに今までだって“任務”のお陰で全員が顔を揃えるなんて事は少なかったけれど
同じように、幾人かの姿が欠けても、これは今までとは違う光景
いつもとは違う場所へキスティスは無言で背を向ける
キスティスの元に集まってくる進路報告
それぞれが決めたそれぞれの行く末
「まったく」
“彼”が提出したソレをキスティスは指で弾く
乾いた音が辺りへ響く
「てっきり残るんだと思っていたんだけどな」
それぞれがそれぞれの意志で決めた事
だから、キスティスには何も言う権利は無い、無いけれど………
「寂しいわね」
今のガーデンには、SeeDであるならば年齢制限なんていう決まりは存在しない
だからキスティスの友人達は皆、希望すればこのままここに残る事ができるのだけれど
残留届けを出したのは、ほんの僅か
バラムではなくても、ガーデンと関わる事を選んだのも、本当に僅か
それは解っていたことだけれど………
「本当、寂しくなるわ」
きっと残るだろうと期待していた人も行ってしまう
まったく予想していなかった事だから、驚きは強かった
「結局、ここを離れられないのは私だけ、か」
この地に残る者もいるけれど、キスティスとは違う理由
キスティスと違い、それしか選択肢が無かった訳じゃないことは良く解っている
他の者は皆それぞれの場所を見つけている
ため息が零れる
“ガーデン”という場所にこだわり、とらわれ続けているのはキスティスだけ
同じようにこの場所に、SeeDという存在に縛られているはずだった………
身体の中に渦巻いているいろんな感情
様々な言葉をまとめ上げれば言葉となってこぼれ落ちるのは
「ずるいわ」
ただ一つの言葉
そして自分がそう言った事にキスティスは苦笑する
「でも、良かったって思うべきね?」
“友人”の新しい道筋に、新たな生き方を祝福して
キスティスは、彼の―――彼等の書類に受理の印を入れた

「これはゼルに頼むわ」
ガーデンに届く依頼をSeeD達へと振り分ける
相変わらずの日常
「了解」
相変わらずの日々が続いている
後少しの時間変わらない日々が続く
 
 

 End