もしも………


 
「おじさんがね、大統領をやっていなかったら、何をしていたかな、って思うのよ」
質問自体は良くある質問
けれど、その問いかけはあまりにも突然で
驚いた頭で考えてはみたけれど、
問いかけに対する答えは出てこなかった

もしも大統領では無かったら
いったい何の仕事をしていたのか

エルオーネの問いかけに、スコールは無意識に首を傾げる
「大統領じゃなかったら?」
「そ、スコールも良く大統領に向いてないって言うでしょ?」
ラグナの言動に対して、そういう評価を口にしていたのは確かだから、その言葉には素直に同意を示す
「おじさんの場合は、なし崩し的に大統領をやってる訳だからそれも仕方が無いとは思うんだけどね」
就任の経緯は確かになし崩し以外の何事でもないから、それも素直に同意する
「それじゃあ、おじさんが、大統領にならなかったら、今頃どんな仕事をしていたのかなーって」
にこにこと悪意の無い笑みがスコールへと向けられる
ラグナの職業?
そんなどうでも良い事、と言いかけた口が、エルオーネの視線で止められる
ラグナの仕事?
すぐに思い浮かぶのは、以前に就いていたという軍人とルポライターという職
………ダメだな
垣間見た過去の情景、ガルバディア軍の一兵士としてのラグナの姿
兵士―――戦士としての腕前がどうとかいう以前に、ラグナという存在そのものが兵士には向いていなかった
兵士として復職したとしても、長くは持たない
軍人をやっているっていうのは考えられないな
―――軍人をやっていたということ自体が、既に信じがたい
もう一つの職のルポライターだって………
ラグナが過去に書いたという記事
その幾つかを目にする機会はあった
記事自体は悪いモノじゃないと思う
………多分
けれど何度も見ることになったラグナの文章―――文字
一見暗号文に見えるあれは大問題だ
当時の編集者もアレを相手にするのは相当骨が折れただろう事は、簡単に想像できる
もっとも、手書きで無ければどうにかなるかもしれないが―――
ルポライターという職、これは出版社に相手にされなくて職業としてなりたたない気がする
その他と言えば………
………そう言えば俳優もどきをしていた事もあったか?
アレは論外だ
ラグナが俳優に向いてるはずもないし、本人自身もコレを仕事になんか選ばない
その他の職業と言えば………
“仕事”と言われてその他に思い浮かぶのは、スコール自身が身近に感じている職業の数々
一般的とは言い難い職業を思い浮かべ
当然の様に否定を繰り返す
どれもこれもラグナには似合わない
長い沈黙が続いて、
「スコール?」
楽しげなエルオーネの呼びかけに我に返る
にこにこと変わらずに向けられる微笑みは答えを促していて
「………思い浮かばない」
仕方なく口にした言葉に、何故かエルオーネは嬉しそうに笑った

―――思い浮かばない
それがスコールの答え
ラグナおじさんに似合う職業なんて、上げようと思えば幾つでも―――とは言わないけれど、幾つか上げることが出来ると思う
それが出てこないのは、きっとね“今”を案外認めてるからじゃないかなって………
………そうだったらいいなって、そんな風に思う
 
 

 End