可能性 
 

 
私が私の“力”を知ったのはまだ幼い時
私がその力の意味を知ったのは、それから少し成長した時
必死に使い方を研究して
そして私は目的の為に力を使った
力を使って───
目的はかなわなかった
私の力ではかなわなかった、過去を変えるという事
私が行った事は私の独断
過去を取り戻したかったから
私が、罪悪感から逃れたいと思ったから
その思いで行った事、だけど………
聞いてみたかった質問
聞きたくて
でも、私が望むのと違った答えだったら
そう思うと聞けなくて
機会がなくて、ずっと気になっていた事
けれど
たまたま訪れた静寂
無言の時間
その時を狙っていた訳ではなくて
その言葉を言うつもりだった訳ではないけれど
その時、言葉がこぼれた
「おじさんは、やり直したいって思った事無い?」
後悔して、もう一度あの時に戻りたいってやり直したいって思った事無い?
言葉にして後悔する
後悔していないはずは無い
───そう思いたかったから
当然のことを聞いて、傷をえぐるような事をして
───大切にしていて欲しかったから
「そりゃーな、山の様にあるぞ」
困った様に告げられた言葉に、私はそっと安堵して
「じゃあ、もし戻れるとしたら、どうする?」
───いつに戻りたい?
本当はそう聞きたかった
「どうするか、どうするかなぁ」
視線が、どこか遠くへと向けられる
“あの時に戻りたい”
私が望む答えは“あの時”レインの元に戻る事
私と一緒に帰ること
「そうだなぁ、戻ってやり直せるのなら、やり直したいけどな」
懐かしむ様に見つめられていた視線が、私へと向けられる
「………けどそうすると、今がなくなっちまうからなぁ」
だからきっと戻れないだろうなぁ
聞こえた言葉に、私は息を飲む
「今?」
「やり直したら、違う人生を歩むんだろ?」
今とは違う人生
そう、私はそうなることを望んで居た
「けどそうなったら、“今”の知り合いとは知り合うことも無いかもしれない」
やってきた事も、覚えた事も、身に付いた事もすべて無かった事になるかもしれない
「それを考えるとなぁ」
いつも通りの声が聞こえる
でも………
言いかけた言葉を飲み込む
話す言葉が遠く聞こえる
───出会わなかったかもしれない
おじさんが、あのとき私と一緒にレインの所に帰っていたら、私はここに───エスタ───に来る事は無かったかもしれない
もし、もしも私の力が過去を変えることの出来るものだったら?
思い出すのは、スコールを通して目にした過去
私が送り込んだずっと昔
私達と出会う前の出来事
もし、過去に戻れるとしたら?
もし、過去を変える事が出来るとしたら?
過去を変えようとしたくせに、初めて気がついた可能性
出会わないかもしれない
───この世に存在しないかもしれない
私は早くなった鼓動を押さえるように、ぎゅっと胸元を掴んだ

 End