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感覚
 
  
 
 ………?
 意識に触れる微かな気配に、ふと顔を上げた
 巡らせた視線の先には、何も変わったところは見受けられない
 気のせいか?
 ほんの僅か首を傾げて、中断された作業へと意識を向ける
 ………………
 再び同じ感覚を感じる
 再び手を止めて、じっくりと辺りへ視線を運ぶ
 おかしな所は無い、と一度通り過ぎた視線が戻る
 可笑しくはない?
 自分自身へと向けられる問いかけ
 止めた視界の中に見えるのは、1つの人影
 ………………
 人影がゆっくりと動く
 同化した影の中から分離するように、良く知った姿が現れた
少しばかり心臓に負担が掛かったから、作業は中断
 階下に降りて、2人でお茶を―――
 作業の手を途中で止めた形になるラグナへの
 忙しかったんじゃないのか?
 なんて、スコールの言葉は嬉しいけれど、別に仕事をしていた訳じゃない
 ………そもそも仕事を持ち帰る様な事しねぇし?
 っていうか、基本的に持ち出し禁止だしな
 まぁ、それよりも
 何にも無い空間から突然人がっ!
 って感じでほんっきで驚いたし、その状況から引き続いて平然としてられる程神経太くないからな
 まぁ、そんな事はスコール本人に言える訳はないんだけどな
 「それで、今日はどうしたんだ?」
 最近じゃスコールがこんな風にやってくる事も珍しく無くなったけれど、あんな風に様子を窺って居るなんて事は無い
 なんか用事があるって考えでまず間違っていない筈だ
 スコールの視線がそらされる
 ―――躊躇
 言いにくい事なんだろうって事はすぐに解るが、何で躊躇っているかが問題だ
 言うのが恥ずかしいのか
 スコール自身が納得出来ていない事なのか
 何か面倒な事になりそうな事柄なのか
 良く見極めないとな
 間違った判断を下せば確実に失敗する
 ラグナの感覚には深刻そうな雰囲気は伝わってこない
 機嫌が悪そうな感じも………多分無い
 緊急性の無い事、無理に聞く必要のない事
 スコールの様子にラグナが感じ取ったのはそんな感覚
 ………しばらく待つか
 答えても良いと思えば答えるだろうし
 答えたくないのなら、ソレはソレで問題はない
 ………まぁ、寂しいけどな
 ほどよく冷めたコーヒーを口に運びながら、息苦しさを感じない沈黙の時間を楽しむ
 ラグナが側にあった雑誌へと何気なく手を伸ばし、ページをめくるのと同時にスコールが動く気配を感じた
 複数の紙がふれあう小さな音
 「………見学に行ってきた」
 ラグナが手にした雑誌の上に資料が滑り込んできた
 とぎれがちな会話が続く
 見学した際の印象
 スコールが感じた事
 いつもと違って主に話をするのはスコールで、ラグナは時折相づちを挟むだけ
 穏やかな空間の中で感じる不思議な感覚
 こういうのも悪く無いな
  
  End 
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