役目 
 

 
上がってくる書類を見つめる
軽く内容を確認してサインをする
稀に面倒になって、ろくに中身を見ずにサインをするが
まぁ、問題になったことは無い
当然っていえば当然なんだけどな
「別に、サインなんて必要ないんじゃないか?」
むしろ、俺自身が必要無いんじゃないか?
「決まりですから」
笑顔の補佐官が、目の前に書類の束を置く
笑っていない強い視線が仕事をすることを促す
そっと視線をそらして、書類を手に取る
満足そうに頷く様子に、思わずため息がこぼれた

無駄に大きな部屋で行われる会議
各部署から上げられた案件
それに下される様々な決定
それぞれの専門家が様々な意見を述べる
述べられた言葉に解説を確認しながら、様々な意見を交わしている
俺は、難しい単語にこっそり頭を抱えながら、言葉を聞いている
意見を求められてもわからねぇし
そもそも意見を求められる事も無い
とりあえず話を聞いて
複数の視線が向けられている
「………いいんじゃねーか?」
許可を求める視線に返事をした

街の中を歩く
視察と称した息抜きの時間
以前よりも人が増えた街中は、観光客の姿が目に付くようになった
足取りも軽く
いつもの道を歩く
いつもの店を覗いて
いつもの人達との会話を楽しむ
時折いつもとは違う箇所を見つけて
なんとなくそれを記憶する
適当な時間が過ぎた頃、タイミング良く現れる追っ手
そいつ等に捕まって、一騒ぎしながら帰る

すれ違った相手へ声を掛ける
ふと思い出した事
先日思いついたこと
目にした光景
ただ単に気になったこと
ただ、話をする
そこから先は彼等の仕事
後はただ、サインをすれば良い


 End