料理
ゆっくりと鍋をかき混ぜる
立ち上る湯気と美味しそうな匂い
かき混ぜる手にかかる負担が煮込み具合を教えてくれる
何度も何度も作ったスープ
子供の頃から作り続けたコレは間違い無く美味しいと言われる自信作
「自信はあるんだけどね」
美味しいことは解ってる
でもコレは私が創り上げた味で、私が作りたかった味じゃない
もう記憶も曖昧な昔
毎日食べていたはずの味
どうにかソレを再現したくて
できあがらなかった料理
『美味しい』
何度も食卓に並べてそう言葉をもらっているけれど
一度も『懐かしい』と言われたことは無い
だから、私が違うと思うこの味は違う味としてできあがったんだとそう思う
得意な訳でも上手い訳でもないんだけどな
そんなことを呟きながら手を動かす
その様子はとても慣れている様に見えて
感心するのと共に少し寂しくなる
できるようになったのは必要だったから
他にしてくれる人が居ないからできるようになった
きっとつまりはそういうこと
「美味しそうだね」
慣れた様子で作られる料理
自信作だと言って笑う声と共に料理が差し出された
一口飲んだスープは懐かしい味がした
並んだ料理に首を傾げる
同じ系統の料理が2つ
「ちょっと手違いが起きてね」
お互いが知らないままに料理を作った
「まぁ、食べられない訳じゃないしな」
スープが2つあるのはともかくとして、品数が多くても困る訳じゃない
理屈は確かにその通りだ
「………多いことに替わりは無いな」
美味しいとも不味いともなんの感想も無く
特に話題も無いまま食事が終わる
まぁ、そんなものだよね
食べたことの無い味を知っている訳が無い
だから、私が努力している味付けについてはなんの感想も無くて当然
当然だったけど
“似たような味がする”
そう言ったスコールの言葉は少しだけ嬉しかった
End
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