非ヒーロー 

物語のヒーローは
ピンチになれば、何か新しい手段を手にして───そうでなければ誰かが手助けしてくれる人が現れて
そうして上手くピンチを脱する
ヒロインがピンチに陥れば
たとえギリギリのタイミングでもヒーローは間に合って
彼女を救出する
そんな物語に子供の頃は憧れて
きっとそんな風になるんだとそう純粋に思っていた
けれど当然そんなはずは無くて
現実を知り
それから精一杯出来る範囲で生きて………
俺は物語のヒーローじゃない
だから、肝心な時に間に合わなかった
間に合わなくて、それを諦める訳には行かなくて
あがいて、あがいて
その結果手にしたのは最悪の結末
最も大切なモノを失って
同じくらい大切になるはずだったモノも奪われた
行き場の無い怒りと後悔と
様々な感情がごちゃ混ぜになって
どうにかそれにも折り合いをつけて
その末に
失ったはずの一部が現れた
嬉しい、なんて感情はわき起こらなくて
混乱と困惑
ただ、どうして良いのか解らないまま
そうして時間が過ぎて、少しずつ感情を整理した
申し訳ない気持ちと喜びと
そして、それから………
複雑な気持ちに蓋をして
僅かに開いた隙間から、感情の一部を取り出す
物語のヒーローなら、きっとこんな思いも抱かなかったんだろうな
現実は
現実で英雄なんて持ち上げられた人間は
伝えられる程立派な人物では無く───
TVの中で、昔憧れたヒーローがピンチを脱する
笑顔で終わる物語に封じていた思いを重ねた

 End