旅の宿
───今日もまた、旅人が訪れる
『今度遊びに来いよ』
『近くまで来たんなら、“ウチ”に泊まれば良いだろ』
随分昔に交わした言葉
似て居るようで全く違う言葉
1つ目の言葉は叶えられる事が無かったけれど
今は違った形で約束は守られ
………定期的に旅人が訪れる
軽やかな音が来客を告げる
モニタに映し出される赤い鬣
こちらを覗き込むムンバの姿
「おっ」
特に決まった訳じゃない、と思うが
春のこの時期にになると彼等が訪ねて来る事が多い
………もちろん、1年中どんな時期だって、訪ねて来る時は訪ねて来るが、ほぼ毎年来るのがこの時期だ
「よく来たな〜」
だからこそ、いつも通り歓迎して
いつも通り迎え入れる
………この個体は初めて会うかな
ムンバの見分けは付きにくい
よく言われる言葉だが、何年も付き合っていればそれなりに見分けも付くようになってくる
ムンバって種族は複雑で
個にして全
全にして個
感情やら強い思いなんかは、一人が感じると全員が感じる事が出来る
反面、やっぱり個人は個人で
趣味嗜好なんかには微妙な差があるらしい
って事に何年も何人もと付き合って、気が付いた
だから、まぁ多分
今回訪ねてきたムンバは初めて会った、ような気がする
この“彼”は何を好むだろうか?
何を気に入るだろうか?
彼等が気に入った幾つかの品々
さて、何にするかなぁ
似たような傾向のものを気に入ることは解っている
後ろからついて来る彼へどんな歓迎をしよう
家の中を案内する短い時間、様々なプランを考えた
「また来いよ」
何度も頭を下げながら遠ざかる姿に声を掛ける
もう一度“彼”が来ることが在るかは解らないが
彼等とのつきあいはきっとずっと続いて行く
End
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