職人技


 
あちこちで使われる高度な科学技術
最高技術を誇る科学
だからエスタに使われているものは全て高度な機械によるものだと、そんな錯覚をしていた

よく在る大規模な工場
辺りを埋め尽くす機械
次々と生産されていく物質
当たり前イメージされるそれらのものの姿は無い
ここは十数人の人が働く小さな工場
機械の存在はあるが、ソレは部屋の隅へと押しやられている
目の前で一つ一つ行われる手作業
興味深く見つめる視線を気にした風もなく黙々と続けられる作業
無骨な手が器用に動き、丁寧に作り上げていく

目の前にあるのは、古い機械―――らしいもの
いや、機械なのは間違い無いが、腐食した金属と壊れた部品からは、これがいったいどんな動きをするものなの解らない
「どうにかならないか?」
そう言って困った顔をしているのはゼル
経緯は良くわからないが、誰かからの頼まれモノを持ち込んだものらしい
「どうにかっていってもね」
とりあえずそれぞれ手に取り見つめてみたが、修理の方法どころか原型が解らない
「っていうか見たこと無いよね、こういうの」
アーヴァインの言葉にそれぞれが頷き
「いったい誰から預かってきたんだ?」
スコールの質問に要領の得ない返答が返ったのが、幾月か前

それぞれが心当たりの場所へと持ち込んで、ソレは最後の最後でスコールの手によってエスタに持ち込まれた
未だにコレがいったいどういった代物なのかよく解らない
預かった本人も―――預けた本人も良く解らないものらしい
「形見らしい」
スコールの言葉にラグナはテーブルの上に置かれたソレに手を触れる
持ち上げて様々な角度から眺めすかして
“カチッ”と小さく何かが動き出す音が聞こえる
テーブルの上に置かれたソレがぎこちない動きで動き出す
端から端まで動いて、向きを変えて戻ってくる
ただ同じ動きが繰り返すだけの単純な動き
「この状態でここまで動けば上出来だけどな」
いったいコレは何だ?
不機嫌なスコールの言葉に返ったのは
おもちゃだろ
という気楽な返答
そして、とりあえずここに持ち込んでみろ、と終えられたのが小さな一軒の工場だった

息を詰めて見つめる前で、一つの“作品”ができあがる
無意識の内に漏れた感嘆の声に、初めて彼が得意げに笑った

滑らかな動きで動くソレに様々に上がる声
一通り動きを堪能してから、ゼルは大切そうにソレを届けに行った
 
 

 End