日常的な雑事


 
バラムガーデン卒業までの期間はガーデンに属したSeeDという身分は変わらない
そして、どうやら学園を去る間際まで課せられた役職も変わらないままらしい

世界各地から持ち込まれる様々な事件の対処へと当たるためか、ガーデンへ対する世間一般のイメージは、規則正しく整然としたものらしいが、世間の想像に反してバラムガーデン内でのトラブル発生率は多い
但しトラブルが多いとはいっても、トラブルの内容自体はたいしたものでは無い
くだらない事、どうでも良い事
そのほとんどが、ほんの些細な言い争いやどこにでもあり得る意見の相違と行った類のモノだ
ガーデンに所属するその大部分が、10代、もしくはそれ以前の子供達ばかりだとという事を考えれば、それもごく自然の出来事
ただ、些細な騒ぎが良く起きる
その上、ほんの些細なトラブルが、予想外に大きな騒ぎに発展する
それは、“ガーデン”が特殊な組織であることに関係し、ガーデンの中でも、比較的自由な校風―――言い換えるならば、それは厳しい規則が無いと言うことだ―――であるという事が関係している
ガーデン中核部へと向かう途中、廊下の向こうで騒ぎが聞こえる
聞き慣れた声
聞き慣れた言葉
ガーデン内で起こるトラブルの大半はある一定の人物が関わっている
今もいつもの顔合わせが、廊下の真ん中で怒鳴りあいを繰り広げている
またいつもの騒ぎか………
初めの頃は脅えた様に遠巻きにしていた一般生達も、既に慣れたらしく、一瞬足を止めただけで何事も無かったかの様に通り過ぎていく
すれ違う彼等の幾人かが懇願する様な視線を向けてくるが
―――放って置けばそのうち収まる
スコールは巻き込まれる事を避け、他の道へと角を曲がった

ガーデンの役割と言えば、学園としての学生達の育成
そして、ガーデンに所属するSeeDを様々な任務へと送り出すこと
この2つに集約されるが、ガーデンという組織を機能させる為に必要な雑務は数多い
ガーデンの司令官、中核を司る幹部として行っていた仕事は、SeeDに対する依頼の処理
依頼者と依頼に関するデータを集め、適当と思われる人材を派遣する事
場合によっては、全体の指揮を執ること
そういったSeeDに関する部分のみを扱っていた
それが、どういう訳かいつの間にかSeeDとは直接関わりの無い部分―――学生達の訓練等に関する様々な雑務等―――が、彼等へとSeeDに関わる仕事の一部として回されてくるようになった
「ねぇ、ここの予定なんだけど………」
平穏な世界では、ただ訓練をするだけでも様々な取り決めや手続きが発生する
ガーデンの顔とも言えるSeeDが間に立つことによって交渉が多少楽になるという話だが、ソレが本当に効果を上げているのかスコール達は知らない
学園外での訓練予定書へと目を通す
もし、大規模な任務が起きたりしたら作戦開始前に忙しさで倒れそうだ、とは誰の言葉だったか………
本来なら関わりの無いはずの雑事
幾つかの事項を確認し、スコールは渡された訓練プログラムを修正した

大規模な争いが無くなり、戦場へと立つ兵士が必要無くなった今となって、SeeDへの依頼は無くなるのではないか
“魔女”との戦いが終わった当初良く言われた言葉だが、SeeDへの依頼は未だ無くならない
確かに世界が混乱していたその当初よりはその数を減らしてはいるが、SeeDに対する仕事の要請が無くなる様な気配は無い
そうはいっても世界が落ちつき、大規模な戦いが無いことは確か、“傭兵”としてのSeeDを必要とする者はほぼ居ない
今までの主要任務だった、戦場での戦力としての役割の代わりに増えたのは、著名人等の護衛、式典での警備等
「えーと、ドールの政治家の会食会の警護だって」
スコール達は持ち込まれた依頼へと目を通す
「………これって特別警護の必要があるのかしら?」
依頼の内容はSeeDで無くとも勤まりそうなものが増えた
「………多分いらないんじゃないかな」
SeeDを派遣するには高額な金がかかる
同じ仕事を依頼したとしてもランクが高くなればなるほど、その料金も跳ね上がる
SeeDに仕事を依頼できるということはそれだけの財力があるという事
その上、金があり、依頼さえすればSeeDが仕事を引き受けるということは無い
仕事を引き受けるか受けないかはSeeD次第だ
だからもし、依頼された仕事を引き受け、ランクの高いSeeDがやってきたとなれば………
SeeDが居るというのは一種のステータスになるらしい
「問題のある相手じゃないわね」
「それじゃあ、依頼は受けるということで………」
だが、現実はこんなもの
SeeDの派遣は貴重な収入源としてなくてはならない仕事
依頼人と依頼内容に問題が無ければ大概の依頼は受けている
そうして、世の中には案外金をもてあましている人間が多いらしい
どうでも良い任務に優秀なSeeDが駆り出される割合が増えた
スコールはいらだたしさを隠しながら、任務に当たるSeeDを選んだ

ここ最近多くなった気がする雑事
頻繁な呼び出しに自分の時間がほとんどとれない
学園に所属している間は―――
学園に居る間は仕事の数々から逃れられない
「頼みがある」
嫌々ながら切り出した言葉に相手は快く承諾した

翌日突如舞い込んだのはエスタからの依頼
スコールのエスタへの派遣要請
彼等がその依頼書を目にした時には、重ねるようにして契約書が置かれ
「………思い切った手段に出たわね」
既にスコールは学園を出た後
「すごいよ、もう契約金振り込まれてるよ」
契約書の取り交わし、契約金の支払いによって契約は確定
一度契約されてしまえば、相手側の落ち度が無い限りは契約を破棄する事は出来ない
そして、契約書に、示された期日は―――
「………ガーデンの体制を見直す良い機会かもね」
黙り込んだ彼等の中で、キスティスの声が空ろに響いた
 

 End