書斎での一コマ
いつもの様に開いた扉の内側に人の気配が残っている
滅多に自分以外の人間が足を踏み入れる事の無い場所
そこに残された明確な人の気配にラグナは僅かに首をひねる
ここに来るなんて、珍しい事もあるもんだな
見られて困るものがある訳でも無く、大して気にする事無くいつもと変わらない時間を過ごした
私邸に設けられたラグナの書斎
書斎という名が付き、書斎と呼ぶのにふさわしい物も揃っているが、ラグナが興味のあるモノ、おもしろそうだと持ち込んだモノ、そんなモノが幾つも存在していて、それ以外の物も数多く存在し、雑然としたなんでも有りの部屋
ラグナがこの場所にいる時、どうしても用事のある人が仕方なしに訪れる場所
別にラグナはここに足を踏み入れる事を禁止している訳ではない
必要なモノがここにある事を知っていたとしても、ラグナが居ない時に足を踏み入れる者がいないのは、扉を開けた瞬間に目にする溢れ零れ落ちてきそうな荷物のせいだ
この中から探さなければならない
崩れ落ちでもしたらただでは済まない
当然、脳裏に浮かぶこれらの言葉と
のしかかってくる労力と精神的負担に、室内に足を踏み入れる事を断念する
―――必要があればラグナ本人に頼めば良い
各人の抱いた共通の認識が、私邸にあるラグナの書斎に滅多に人が近づかない理由だ
まとまった時間が取れて、特に用事も思いつかない
ラグナが書斎へと足を向けるのは数少ないそんな日
その中でも書斎に籠もって一日を過ごすのは、窓からの日差しが心地よく、居心地の良い滅多に無い時
なんとなく気が向いたその日、ラグナはひさしぶりに書斎へと足を踏み入れた
「………………」
扉の中に見えた光景に、ラグナは確認するように扉を閉め辺りを見渡す
目に映る様子はいつもとまったく変わらない
右手をかけたままの扉も間違ってはいない
もう一度ゆっくりと扉を開く
先程と変わらない光景
ラグナの記憶とは違う配置
乱雑に置かれていた筈の荷物は綺麗に片隅に片づけられている
床の上にそのまま積み上げられていた筈の書物も溢れ出た一部を除いてどうやら増えたらしい書棚へと収まっている
そして、部屋の中央に在る人影
「………あーーっと」
どう声をかけて良いか解らず、おかしな声が上がる
振り返った視線が、ラグナへと向けられる
「えーと、お前が片づけたん、だよな?」
何拍分かの静寂
「しかし、ここまで綺麗になるもんなんだなぁ」
のんびりとしたラグナの声に、スコールが僅かに肩を竦めた
手にしていた数冊の本を手近な所へ置き
窓際の椅子へと腰を降ろす
目の前の机の上で幾つかの書類を広げて―――
いつもと変わらぬ時間をすごせば、綺麗に整理された部屋が少しずつ浸食されていった
End
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