近 似


 
押し黙ったまま、考えを巡らせている姿をじっと目にする
ほんの少し前まで流れる様に話していた姿は影を潜めた
微かに動く右手の指先が、一定のリズムで机を打つ
『迷った時とか、考え事をしている時は逆におしゃべりになるみたいね』
知ったフリでそう言った声が蘇る
ゼンゼン違うじゃねーか
今俺が見ているこの姿こそが、考え事をしている時の態度だ
彼奴等が知らずに居ることを先に知った事にほんの少し優越感が生まれる
帰ったら彼奴等にも話してやろうか、
いや、簡単に教えるのはもったいない………
てな事を考えていたが
そういや………
くだんの言葉を聞いた時のアイツの態度を思い出した
何か言いたいことがあるっていう態度
納得出来ないって言った例の態度だ
思わず舌打ちしそうになる
あいつ、解っていやがったな
いつもの様に不機嫌な気分になると同時に、机を打つ指先が止まった
「ああ、わりぃ、ちょっとぼーっとしてたな」
軽い調子でそう断ると、目の前の彼は先程の様子が嘘のように再び流れる様に話を始める
別に深い考えがある様には思えない会話
言いたいことだけ、思いついた事だけを言っているかの様な話
言葉を交わしながら、ソレがただの錯覚だと言うことに気づかされる
………言質はとらせねぇし、確信には触れねぇな
こっちが聞きたいと思っている言葉は全然言う気配がねぇ
上手く誘導した筈の話題は、それ以上に上手い具合にかわされる
彼奴等の言うことはことごとく当てにならねぇな
事前に聞かされた人となり
彼奴等の話ではこれほど手強い相手じゃ無かった
………そういや、ものすごく微妙な顔をしていたか
別の理由からかと思っていたが、どうやら彼奴等のあまりにかけ離れた人物像に呆れかえっていたってところか?
面白くない記憶を思い出している間も、こっちの身にならない会話は続いていた様だ
申し訳なさそうに、時間を告げる声が聞こえる
「っと、わりぃな、返事は今度改めてするからよ」
そう言い置くと、ラグナは慌ただしく退席していった

通りかがった廊下で、何事かを訴える声が聞こえる
大きめの声は、人の注目を集めるには丁度良い具合で、遠巻きにした見物人が存在している
………なんだぁ?
つられる様に足を止めれば、応えようのない言葉ばかりが連ねられている
アイツの一存で決められる様な事じゃねぇだろうが
その程度の事は誰でも解っていると思っていたが、どうやらそうでは無いらしい
………いや、解っていてやってるって事も考えられるな
これだけの見物人がいる中で迂闊な言葉を返したなら、それを盾に無理強いをするつもりなのかもしれねぇ
口数が多く無い上に、会話も上手いとは言い難いからな、適当にあしらえるとでも思われたか?
しかたねぇからいざと成ったら手を貸してやるぜ
そう思いながらサイファーはもうしばらく現物する事を決めて、近くの壁へと背中を預けた

饒舌とは言い難いスコールの言葉が聞こえる
途切れ途切れの言葉を口にするたびに、上手い具合に相手の言葉を反らしていく
………どこかで見た光景だな
いつかの様にまくし立てるように言葉が続けられている訳じゃない
どっちかと言えば相変わらず言葉は足りていない
だが………
スコールがゆっくりと時計に目を向ける
タイミングを計ったかのように、スコールを呼ぶ放送が入る
時間切れ
コレばかりは口早に、詫びの言葉を継げると相手の言葉を聞くことも無くすぐさまスコールは退散していく
「………幕切れまで同じかよ」
目の前を通り過ぎるスコールへ聞こえる様に呟いてやれば、嫌そうに顔をしかめた
 
 
 

 End