人的トラブル


 
忙しい時っていうのは、何もかもが一遍に押し寄せてくる

この仕事が多忙だ―――
なんて事は言うつもりは無い
確かに忙しい事は忙しいが、似たような職に就いている他の奴等よりは遙かに楽をしている自覚があるし
全く関係無い他の仕事をしている奴の中には、比べる事も出来ない程忙しい奴だっている
だからまぁ、俺だけが特別忙しいなんて言うつもりもないし、思ったことも無い
だからと言って、“暇だろう”なんて言われるのは不本意だ
“暇だ”と言われる程、暇なつもりも無いし
実際に俺よりもずっと、暇な奴が居ることも知っている
一緒に仕事をしている奴等が言う言葉は口癖みたいなただの冗談
それを耳に挟んで好きな事を言っている奴等のそれはただの噂話
実際の所は真面目にする事はしているんだから、別にどうだっていいと思っていたんだが………
信憑性の無い話を書き連ねた雑誌が発売され
それを真に受けた奴等からの抗議の電話が続いている
電話に応対する、職員達の声に苛立ちの色が混じっている
―――まぁ、当然だよな
信憑性の無い噂話
エスタに関して書かれたソレは、エスタの人間なら、今更取り合う必要もない程良く知った事ばかり
大統領が仕事をしないなんていう誇張された嘘も、聞き飽きているし
それが、おもしろ可笑しく伝えられたただの例えだということも良く解っている
耳にうるさい程の電話の音が鳴り響く
嘘ばかりの本の中身に踊らされた電話をかけてきたのはエスタとは全く関わりの無い他国の奴等
人の所によけいな口出しするよりも他にやることがあるんじゃないか?
次々と持ち込まれる書類と、不機嫌な顔
これが大して忙しくも無いときなら、楽しみながら適当にあしらうことも出来たんだろうが
間が悪い事に、この所様々な事が一度に起こったお陰で、処理に追われている最中だ
こんな時にくだらない電話をかけてくるんじゃねぇっ!
っていうのは、ココに居る奴等の共通した思いだろう
「んで、まだか?」
ラグナは、忙しそうに働いている技術者達へと声をかける
「もう暫くかかりそうです」
何しろ人手が足りないから
と続ける彼等も、突然のこの事態に無理に来て貰っている
ホントいい迷惑だよな
「とりあえず出来る迄回線落としておくか?」
どうせ用件を電話で寄越す奴なんていねーし
………もし居たとしても、この状態でまともに繋がるはずもないし
「今より悪い状態にはならないだろ」
投げやりなラグナの言葉を聞くと同時に、電話回線が綺麗に遮断された

一瞬で訪れた静寂に、誰からともなくため息が零れる
遠くから、人の話し声が聞こえる
「んじゃあ、ここは今日は休みって事にしようぜ」
ここ最近起きたトラブルに対する申請は現在処理中だ
今から受け付けを必要とする人も少ないだろう、客が来たならば直接担当部署に案内して貰えばいい
「慣れない事さして悪かったな」
幾つかの言葉を交わし見送った後、ラグナはなおも作業を続ける技術者へと顔を向ける
彼が取り組んでいるのは、意味のない電話を一括して排除する仕組み
っていっても、ただ単に、電話の取り次ぎを機械が担当するだけって事だが………
でも、それじゃ面白く無いよな
「ちょっといいか?」
こっちが被った被害ってのも
「その電話なんだけどさ………」
体感して貰うべきだよな

数時間後
怪しげな雑誌の出版元の電話が鳴り続けた
 

 End