「エスタは独特の部分が大きいからね」 他の国とは違う文化 他の国とは違った歴史 今まで覚えたことは殆ど役に立たない 「でも、エスタの大学に通ってここで暮らすつもりなら、それが当然のことだって思わないとならないのよね」 「戸惑いは無かったのか?」 「そりゃ、当然戸惑ったわ」 エルオーネがお茶を淹れながら肩をすくめる 「私が当たり前だって思っていたことが、そうじゃないんだもの」 例えば……… 上げられる幾つかの事柄 目に見えて解ること 時折感じていたこと そして、知らなかったこと 「知らずにいて、失敗することだっていっぱいだわ」 「………例えば?」 「うーん、どれがなんて説明するのは難しいんだけどね」 お茶が目の前に置かれる どうぞ の声に勧められるままにお茶に口をつける 「そうね………エスタだけじゃないとは思うけど“魔女”に対する感情は気をつける必要があると思うな」 あなた達は、“魔女”全体に対して悪い感情は抱いていないでしょうから 続けられたエルオーネの言葉は、たしかにその通りだ 「魔女の味方をする奴に対しても良い感情は抱かない、か?」 エスタこそが“魔女戦争”の首謀者だという歴史も、この国では違う内容に書き換わっているのかもしれない 「そうね………その辺りは少し難しいところだけれど………」 エルオーネが勧めるクッキーを、口に運ぶ 「………エスタでもかつて“魔女”に操られていた人々っていうのは多いのよ」 困ったような顔をする 「操られていた人間には多少は寛大だっていうことか?」 「そうね、魔女に操られることの無かった人は尊敬の対象になるわ、けれど、魔女の支配から逃れることがどれほど難しいことなのかってことを知っている人がいる、そしてそれがどれほど大変なことなのかも伝えられているわ」 「同情されるってことか?」 「そう、と言えなくもないわ」 「………別の意味で過ごし難そうだな」 一気にお茶を飲み干す 「ともかく、エスタでは“魔女”に良い感情を抱く人はいないわ」 「悪い魔女ばかりでは無いとしてもか」 「その辺りは難しいところだと思うわ」 理解はしていても、感情は追いつかない エルオーネの言葉は確かにその通りだ 「それだと、やっぱり風当たりは強そうだな」 飲み干したカップを手に取ろうとするエルオーネをサイファーは断わる 「それはどうか解らないけれどね?」 エルオーネの思わせぶりな言葉に、サイファーは少し乱暴に立ち上がる 「ま、話は参考になったぜ」 「でも、結局はその時になってみないと解らないと思うよ」 「ま、確かにな」 サイファーが扉を開けようと手を伸ばすよりも早く、扉が開いた 「ま、エスタが独特だってのは否定できない事実だけどな」
End
|