現在の事情
滅多に鳴らないチャイムの音
用心しながら窺った扉の外には、緊張した面持ちの知った顔があった
「ごめんね、おじさんもスコールも出かけてて」
そう言って、サイファーの前へとお茶を出す
「いや、特に用事があった訳でもねぇから………」
これがセルフィやアーヴァインならともかく、サイファーが用事が無い限り、わざわざ訪ねて来るなんてない
事の大小は置いておくとしても、絶対に用事はあるはずなんだよね
「二人で息抜きに出かけただけだから、すぐ戻るからね」
「息抜き?」
「そ、『頭の使いすぎで疲れた』っておじさんが無理矢理スコールを引っ張って行ったんだけどね」
適度な息抜きは必要だし、勉強を続ける上でも効果的
「………スコールはともかく、なんでラグナさんが………」
「スコールは真面目だからね」
「はぁ?」
エルオーネはため息と共に肩を竦めて見せる
「入試にしても、特別枠とかいろいろあるのに、真面目に一般試験を受けようとするから、いろいろと大変みたいでね」
エスタは他の国とは様々な面で違う
言語は問題無いとしても、教えられている歴史や技術
そして、一般知識にも他国とは違っている
「それは………」
同じ様にエスタで生活を始めようとしている彼にも思い当たる事があるのか、僅かに顔が引きつる
「それで切羽詰まっちゃったみたいで、おじさんにも質問を始めたんだよね」
「それは、災難だな」
出かける前までの惨状を思い出してエルオーネはため息を吐く
「お互いに、ね」
おじさんの答えはニュアンスだし、微妙に言葉が間違ってるし、質問する相手としては、とっても間違っている
「そういえば、あなたの方はどうなの?」
エスタは特殊な国で
彼が目指しているのは、その中でもいろいろ難しいところ
「まぁ、先生も生徒も優秀だからな、その辺りのことはどうにかなりそうだ」
サイファーらしい言葉
だけど
「それじゃあ―――」
「そっちも大丈夫だ」
サイファーは、難しい立場に居る
「………この国の奴等はバカなほど人が良いぜ」
“魔女”と共にエスタへと攻撃をしてきたガルバディア軍
あの時ガルバディア軍を指揮していたのはサイファー本人
いくら“魔女”の干渉があったとはいえ、そう簡単に受け入れられるとは思えないけれど………
気が付かない振りをしてエルオーネはこっそりとため息を吐く
「エスタはともかく、ガルバディアの方は大丈夫なの?」
ガルバディア軍に所属していたのは、“魔女”に関わるどさくさの間のみ
あの後は元のバラムガーデン所属に戻った事は知っているけれど………
「ガルバディアは、国の改革と同時に軍の改編が上手く行っているらしいからな、前の事を知っていた所で大して影響はねぇってことだろ」
他の国ならともかくエスタへ軍内部の情報が渡ることは断固として阻止するかと思ったけれど
「それに、あの時は“軍”なんて言っても使ったのはガルバディアガーデンとデリングに付いていた極一部の奴等だ、ガルバディア軍の内情なんざ全く知らねぇと同じだからな」
そう告げた後に微かに首をひねり
「どっちかっていうと、正規軍に所属していたラグナさんの方が内情には詳しいんじゃねぇか?」
一言付け加える
「………おじさんの方が詳しいって」
確かにガルバディア兵だった訳だけど、おじさんが軍人だったのって大分前の事だよね
「………それはさすがに無いと思うけどなぁ」
突然横から聞こえた声
慌てて声の方を見ると扉を開けたままのおじさんとスコールの姿
「ガルバディアは他国への侵略はしないと明言している」
「だから、内情を知っているサイファー君がエスタに来てもなんの問題も無いですよって事だよな」
視線を向けた先でサイファーが
「ま、そういうことらしいぜ」
肩を竦めて見せた
End
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