図書室


 
小さな窓が幾つかあるだけの薄暗い部屋
微かな音を立てて動く空調の音
古い紙の匂いと紙がめくれる音
屋敷内の片隅に存在する図書室
ジャンル分けも並びもバラバラな本棚の中身と、本棚に収まらず積み上げられた書籍のおかげで図書室というよりは、既に倉庫の様な趣を醸し出したその部屋の片隅
申し訳程度に置かれたソファーに座り、ただぼんやりと紙をめくる
読んでいる筈の内容が頭の中に入って来ないのは、中身に原因がある訳じゃない
手持ちぶさたにたまたま側に在ったものがこれだった
何もする事が無いのが癪だから、ただページをめくっているだけ
読む気の無い中身は、大して頭の中には入らない
―――暇だ
本を投げやりソファーと深く寄りかかる
何もする事が無い、訳でもない
急いではいないが、やるべき事は幾つかある
そうだな、この機会に―――
頭の中で立てる計画
手順も計画も完璧だが、身体が動かない
―――動きたくないな
例え動かずに居たとしても、誰も文句を言う事は無い
言われる筋合いも無い
伸ばした手が、一冊の本を掴む
再び聞こえる紙の音
ゆっくりとした音はしばらくして一定のリズムを刻みだした

「今日は今年一番の暑さらしいぜ」
不意に掛けられた声に視線を上げる
気が付けば正面のソファにだらしなく座る姿が一つ
「………昨日も同じ事を聞いたな」
「今日はそれ以上に暑いってことだろ」
「知りたくない情報だな」
意外に面白い内容に、視線を落としたままおざなりに答える
「………ついでに言えば、明日も似たような暑さらしいぜ」
投げやりな口調に
「迷惑な話だ」
おざなりに言葉を返す
心地よい冷風と、紙のめくる音
最後の一字に目を通し
「………あんた、仕事は?」
「随分前に終わったな」
半ば本棚に隠れた時計に目をやり、結局一日をここで過ごした事に気が付いた

屋敷内の片隅
最も日の当たらない場所にある図書室
紙が傷まないように整備されたその場所は
最も暗くて、最も涼しい
そんな場所
 
 

 End