扉を閉めてほっと息を吐く 暖かな空気に身体の強ばりがゆっくりと解ける 部屋の中からちらりと向けられる視線 何も言わず 暖炉の前まで移動する 目の前でちらちらと燃える炎 木がはぜる音にもう一度息を吐く 「………寒そうだな」 しばらく時間が過ぎてかけられた言葉 寒そうじゃなく 「寒い」 熱い位の距離に居ても少しもからだが暖まらない 背後でソファーから立ち上がる気配がする 「寒いって解ってるのに、薄着していくのが悪いよな」 呆れたような それでいて楽しそうな声に 自業自得だとはいえむっとする 「ここまで寒いとは思わなかった」 事実を言っただけ だが、言い訳じみた言葉になった気が少しだけする 「ま、ここは冷える時は一気に冷えるからな」 言葉と同時に目の前に差し出されたカップ 思わず顔を見て、無言で手を伸ばす じんわりと指先に広がる温もり カップの中を覗き込んで、眉間にしわが寄る 「身体は温まるだろ」 苦笑いと共に告げられる言葉 「他にも暖まるものはある」 言葉を返しながら、カップに口を付ける ………甘い 「甘いとほっとしないか?」 言葉を無視してもう一口飲む そんなにすぐに暖かくなる訳じゃない 甘く味付けされたホットミルクは、子供扱いされている様で気に入らない 気に入らないが――― もう一口 ゆっくりと飲みこむ 少しだけ暖かくなったような気がする ゆっくりと飲み干して 暖炉の前を離れた なんでもない冬の一日 End
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