通過点
「強くなったな」
しみじみと告げられた言葉
その言葉に内心首をひねる
本当に強くなった?
周りと同じように、行動をして、同じ事をして
他の人達と変わることなく実力はついたのかもしれない
でも、そんな風に言われる程強くなった?
頭の中を巡る疑問の為に、返事を返す事が出来ない
黙ったまま、顔を見つめる
沈黙の時間
「信じられないって顔するなよ」
少し困ったような笑みを見せる
「本当に強くなったと思ってるんだぞ?」
そう言って、真剣な眼で見つめる
「……それなら、嬉しいな」
強くなった
近頃良く言われる言葉
どれだけ多くの人にその言葉を言われても実感が湧かない
それは、自分が強くなったという目に見える証拠がないからなのかもしれない
あるいは、強くなりたいと願ったその目的が未だ果たすことができないからなのかもしれない
安全な街の中で、家の中で、自分の部屋の中で
1人静かな時間を過ごす時、以前よりも強い無力感を感じる
強くなったと思うのは、幻想ではないだろうか?
真夜中、微かな物音が聞こえてきた
普段なら、聞き逃す様な小さな物音
なんとなく物音が気になり、そっと部屋を抜け出した
音が聞こえた扉の向こう側に良く知っている気配
「……何をして……」
声を掛けると、ゆっくりと顔を上げた
灯り一つない部屋の中で途切れがちな会話が進んでいた
「強くなったな」
その言葉を発したのは何度目の沈黙の後だっだろうか
問いかけと、不安と………
いろんな感情が混ざりあった様な複雑な表情をする
「信じられないって顔するなよ」
強くなってるってのは本当なんだぞ?
「本当に強くなったと思ってるんだぞ?」
ただ…………
「……それなら、嬉しいな」
そう言ったその表情は全く嬉しそうには見えなかった
「………不審船が現れるんだそうだ」
長い沈黙の後のラグナの言葉
微かに首を傾げて、スコールがラグナを見つめる
「その船は、世界各地に現れるっていうんだ」
言葉を発しながら、ラグナは覚悟を決めた
「……調べて来てくれるか?」
答えは聞かずとも解っていた
危険な目に遭わせたくない
これはたぶん、親としての思い
………強くなって欲しい
自分と同じ様に、後悔はして欲しくないという思い
どちらも、本物の思い
長い間抱いてきた躊躇いにようやくラグナは結論をつけた
危険が、危険ではなくなる程強くなったことを信じて
数日後、僅かな人間を乗せた船がエスタから出航した
船の上には、スコールの姿があった
END
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